後はもう寝るだけなので、ついでに一階でトイレも済ませようと廊下を歩くと、少し開いた襖から光が差し込んでいるのが見えた。
ひと悶着あった、例の和室だ。
電気のつけっぱなしかと思い、そっと中を覗くと、中は青白い光で満ち溢れていた。

 「ぁ、月…」

眩しいほどに差し込んでいたのは月の光で、中の様子や置物の姿形さえもくっきり見えるほど明るくなっている。
吸い寄せられるように和室に入り、中央付近まで歩いて足を止める。
窓を開けると、こもった温い空気が一斉に逃げ出し、変わりに澄んだ外気がそよ風と共に流れ込んできた。

りぃん、りぃんと、窓枠につけた風鈴が鳴っている。
こんなの着いてたんだ…。
いつもキリキリして余裕がなかったからか、風鈴の存在なんてこの時まで気がつかなかった。
昼間ここに来ていると言うのに。

 「なぁんにも見えてないやぁ、私」

自分ば事かりで、こういう日常を見る視野を失っていた。
その場に座り、縁側から外が見えるように寝転がった。
お湯で熱された体が風で冷まされていく。

 「ずっとこうやって、光が入ってたんだね。もったいないことしたなぁ」

私がこの家に来来る前から、この部屋はずっとこうやって月の光を受け入れていたのだろう。
もっと早くに知っていたら、ちょくちょくここへ来ていたかもしれない。
とても、落ち着く。
本当は温度なんてないのに、月の光に全身さらしていると、暖かな空気に包まれているような気がした。