好きとか愛とか

胃が、また痛い…。

 「壱…」

壱矢の呼び掛けには反応せず、耳を塞いで自室へ逃げ込んだ。
それから机に向かって、無心で課題をこなした。
間違っているのか、正しい答えを導き出せたのかは記憶にない。
ただ一心不乱に取り組んだことしか覚えていない。
今の嫌な自分と、浴衣と愛羅と、母と、そして壱矢と…、そんなものを頭の中から追い出したかった。

下から夕飯の声がかかったけれど無視して行かなかった。
どんな顔で会えばいいか分からないし、いい子の壱を演技できる自信もなかったから。
偽の家族に挟まれてご飯など、とんでもないことだった。
母も私が怒っているとでも思ったのか、しつこく声もかけに来なかった。
高校生なのだから自分で何とかするだろう、といったところか。

いったいいつまで、こんな自分なんだろう。
昔の私はいったいどんなだったのだろう。
そんなことが頭のなかをぐるぐるめぐって、まともに考えられなくなってきた。

 「頭が回らない…」

シャーペンを置き、コメカミの辺りをグリグリしながら時計を見ると、時刻は夜中の一時を回っていた。
一心不乱にもほどがある。
よほど頭から追い出したかったのだろう。
改めて、こなした課題の数を見て自分でも驚いた。

時間も課題の量も現実として受け入れてしまっては、さすがに疲労を感じる。
風呂に入って今夜は寝ることにしよう。
階段を降りて下へ行くと当然誰もいなくて、静かすぎて耳鳴りするくらいだった。
もの音を立てないようにシャワーだけ済ませ、歯を磨いて脱衣所を後にする。
ドライヤーの音も気になるため、髪は半乾きだ。