好きとか愛とか

まぁ、安倍さんが驚くのも無理はない。
私だって自分で言っててびっくりしてる。
だけど、なぜか、すごく、モヤモヤする。
人の事なのに、モヤモヤして気持ちが悪かった。

 「望まないならしない。でも可能性があるかもしれないことに手を出さず諦めてしまうのは勿体ない。選択肢は多い方がいいから」

安倍さんが嫌だというならやらない。
断るならそれはそれだ。
もじもじ両手でスカートの端をいじくる安倍さんは、私と荻野先輩を交互に見て不安げに眉を寄せている。

 「そりゃあ、そうしてもらえるなら凄く嬉しいけど、でもそれじゃあ壱ちゃんに迷惑かけちゃわない??いきなりあそこに行くんだよね?みんなの目もあるしあとで変に噂されたりしたら…」

 「その辺は大丈夫。ちょうど今人が切れて先輩たちだけだから」

さっきまで人だかりや人の流れが目立っていたが、立ち話を始めた荻野先輩ご一行は完全にのーマーク状態だった。
今日やるなら、今である。
私もこれ以上人が増えると遂行できなくなってしまう。
せっついてはいないけれど、なるべくなら早く答えてもらいたい。
そんな私の焦りが通じたのか、安倍さんは一つ大きく頷いて深呼吸した。

 「…ん、うん…じゃあ壱ちゃん、よろしく、お願いしますっ」

私の両手を包み込んで、強く握ってくる。
少しだけ、震えているのが伝わった。

 「分かった、待ってて」

安倍さんの手を握り返してから離し、敵陣もいいところである普通科の方へ進行方向を変える。
一歩踏み出して、ひ弱にならないうちに荻野先輩をロックオンした。