好きとか愛とか

大抵の人なら崩れ始めた均衡に萎縮して、遠慮するというのに、愛羅の対人システムにはプログラムされていないらしい。

母も母で、機嫌を損ねても放っておけばいつの間にか直ってるなんて思っているに違いない。
まともにやりやったって勝ち目なんかあるわけ無いんだ。
諦めることには慣れていたはずなのに、久しぶりに大きなしこりが出来そうだった。
浴衣を着ていることさえ恥ずかしい。
さっさと脱いでくれてやろうと思ったとき、壱矢が私から愛羅を引き離した。

 「愛羅やめろ、それは壱に返せ。奪うなよ。頼むから」

壱矢の低い声が最後、震えている気がした。

─────頼むから─────

そういった壱矢の、何かを堪えるような声は、やさぐれていた私の心にじんわり染みていく。
私の心情に寄り添ってくれているのが壱矢だということが、凝り固まってしまった心を支えてくれているようだった。
唯一の味方なんだと…。
守ろうとしてくれている…。
でも愛羅にはそんなこと通用しない。

 「なんでよ、いっちゃんもいいって言ってるじゃん!」

 「いいなんて思ってるわけねぇだろ。我慢してんだろうが。お前、ワガママし放題でそんなこともわかんなくなったのかよ」

最初はきっと分かっていたのだ。
人の物を無理に欲しがってはいけない。
兄とも誰とも平等で、特別に扱われる謂れがないこともきっと知っていた。
ダメにしたのは、愛羅の周りにいた大人達。
そして、何度も譲ってきた私。