好きとか愛とか

袖を通すのは二年ぶりだ。

 「これにかんざしを着ければ完璧ね」

母の言うかんざしは、母の家に代々伝わるもので、娘から孫またその孫へと受け継がれていて、私もそれを譲り受けた。
鼈甲で作られた花が施されたかんざしは、今もどのアクセサリーよりその存在感を放っている。

 「ほんとだぁっ、この浴衣可愛いぃぃっ、愛羅こっちがいい!!」

先に着付けてもらっていた愛羅が可愛い可愛いと連発し、自分の浴衣と私のを見比べて羨ましそうに唇を尖らせている。
去年まで愛羅は自分の気に入った浴衣を着て祭りに行っていたため、この浴衣の存在は知らない。
初めて見て気に入ったのか、例に漏れずにまたおねだりをしてきた。
壱矢が私と愛羅の間に、割って入ってくる。

 「止めろ愛羅っ。本気で怒るぞ?お前昨日浴衣買ってもらったんだろ?壱はこれずっと着てんだよ。壱のもんなんだよ。人のばっか欲しがんな」

愛羅の肩を掴んで引き剥がし、最初からきつい口調で叱りつけた。
場の空気が一気に不穏なものになっていく。
泣くじゃん、止めてよ。
壱矢の気持ちは嬉しいのに、愛羅が泣くことになる方が面倒に思えた。
愛羅の顔は早くも歪み、いつ泣いてもおかしくないほど唇が震えている。

 「だってぇ、古い浴衣なんかかわいくないと思ったんだもん。ださいだろうなって。でも実際見たらすっごい可愛い色だし、大人な感じに見えて着たくなっちゃったんだもん。しかたないじゅん」

壱矢の顔を見ず、下を向いて駄々をこね始めた。
嫌な予感しかしない。
愛羅が欲しいといえば、逃れられる術はもうない。
でも…。