断れなかった。
「どうかしら、壱矢君」
私の気付けを終えた母が部屋の真ん中に引かれた襖を開けて、壱矢に声をかけた。
私同様呼び出しを受けていた壱矢がスマホを置いて、私の方へ体を向けた。
見世物みたいで恥ずかしい。
目に入るのと見られるのは全然違う。
私を見て、上から下まで眺めた壱矢だが、しばらく経っても何も言わない。
もしかしてとんでもなく不似合いでコメントに困っているのだろうか。
だから着たくもなければ見せたくもなかったんだ。
今すぐにでも脱ぎたい衝動を押さえて壱矢から目を離す。
すると、壱矢が立ち上がり「もっとよく見せて」とこっちへ向かってきた。
私の目の前で止まり、私を見てから母に視線を向けた。
「すごく可愛いです。魅惚れますね」
母が喜ぶ言葉はこれしかないだろう。
そつなく外さず答えた壱矢が、今度は私を見て微笑んだ。
「よく似合ってるよ、壱。かわいい」
社交辞令、リップサービスにもほどがある。
いや、まぁ、私に対して言ったと仮定すればだけど、でも私に対してでなく浴衣にとなれば異論はない。
この浴衣は母のもの。
ずいぶん前のものなのに、時代を感じさせない鮮やかさがある。
アイボリーより少し薄い色の生地に、淡いくすんだブルーの大きな牡丹の花と、水彩画のような柔らかなタッチでグレーの葉っぱが描かれている。
藍色の帯は金魚みたいにふわふわしていて、とても愛らしい。
私はこの浴衣が大好きで、毎年祭りにはこれを着せてもらっていた。
「どうかしら、壱矢君」
私の気付けを終えた母が部屋の真ん中に引かれた襖を開けて、壱矢に声をかけた。
私同様呼び出しを受けていた壱矢がスマホを置いて、私の方へ体を向けた。
見世物みたいで恥ずかしい。
目に入るのと見られるのは全然違う。
私を見て、上から下まで眺めた壱矢だが、しばらく経っても何も言わない。
もしかしてとんでもなく不似合いでコメントに困っているのだろうか。
だから着たくもなければ見せたくもなかったんだ。
今すぐにでも脱ぎたい衝動を押さえて壱矢から目を離す。
すると、壱矢が立ち上がり「もっとよく見せて」とこっちへ向かってきた。
私の目の前で止まり、私を見てから母に視線を向けた。
「すごく可愛いです。魅惚れますね」
母が喜ぶ言葉はこれしかないだろう。
そつなく外さず答えた壱矢が、今度は私を見て微笑んだ。
「よく似合ってるよ、壱。かわいい」
社交辞令、リップサービスにもほどがある。
いや、まぁ、私に対して言ったと仮定すればだけど、でも私に対してでなく浴衣にとなれば異論はない。
この浴衣は母のもの。
ずいぶん前のものなのに、時代を感じさせない鮮やかさがある。
アイボリーより少し薄い色の生地に、淡いくすんだブルーの大きな牡丹の花と、水彩画のような柔らかなタッチでグレーの葉っぱが描かれている。
藍色の帯は金魚みたいにふわふわしていて、とても愛らしい。
私はこの浴衣が大好きで、毎年祭りにはこれを着せてもらっていた。

