好きとか愛とか

そうなったら、
私がもし一年後になっても壱矢の言うことに気付けなかったら、どうなってしまうんだろうか。
えもいわれぬ不安に怖くなって、膝の上で両手を握りしめた。

 「どうした?」

壱矢の手が私の手の甲へ乗せられる。
優しい声で訊ねられ、穏やかな顔で私の顔を覗き込まれた。
壱矢のいない今後に動揺なんて言えず、貼り付いた強張りを払い除ける。

 「いえ…先輩はもう大学決めたんですか?」

 「だいたいの目星くらいかな」

今の時期に志望校が決まっていないなんて、進学校ではあり得ないのに、なんてばかな質問だ。
なにをこんなに怯えてるんだろう。
壱矢がいなくなる日常になっても、今までとなにも変わらず私は私でやればいいだけのこと。
完全アウェイなんて、ずっとそうだったのに。
なのになんでこんなに、私は焦っているのだろう。

ざぁぁっと風が吹き、スカートの裾が踊る。
壱矢の制服のネクタイが見えて、顔を上げると思っていたより近くにいて胸がざわついた。
乱れた髪が唇のはしに引っ掛かり、壱矢の長くて男らしい指先がそれをさらっていく。

 「あのさ、壱…」

首を傾げて返事をすると、壱矢が珍しく言い澱んだ。

 「大学受かったら…」

そこまで言ってまた止まる。
何を言おうとしてるのか分からないけれど、言いにくいことであることは確かだ。