好きとか愛とか

 「飲みますか?」

注いだばかりのお茶を差し出すと、それと私を交互に見た後笑って受け取った。

 「サンキュ」

渡して気が付く。
これ、間接キスじゃない?
私が使ったあとのものを壱矢が使う、そしてその逆…。
この後私が同じコップを使えば、壱矢とは確信的に間接キスすることになってしまう。
意識しなければ気にもならなかったことなのに、意識してしまったばかりに気にしなければならなくなってしまった。

私はもう続けて飲めない。
壱矢は何も気にせずコップに口をつけている。
喉仏を上下させて一口含むと、いい音を立てて飲み込んだ。

壱矢は気にならないのだろうか。
間接キス、なんて女友達とでも簡単にしてきた?
これまで数えきれないくらいの間接キスを誰かとして来ているから、こんな小さなこと気にならないのかもしれない。
そう思うとまだ、胸がチクリと痛んだ。

何事もなくコップを返され後もまた、胸が痛む。
うまかった、サンキュ、そういって普通に…。

 「受験生かぁ…なんかそんな感じしねぇなぁ」

空を見上げ、そよぐ風に身を任せる。
さっき二年後を想像して血の気が引いたが、そこには壱矢がいない未来は含まれてなかった。
家を出ていくかどうかは分からない。
家から大学へ通うかもしれない。
でも、こうして毎日登下校を一緒にすることもなくなってしまう。
私の毎日が、がらっと変わってしまうのだ。
後一年もない。