好きとか愛とか

接点も面識もない男女の最大のハードルかもしれない。
棟も学年も違えば、その接点も手に入れにくい。
多分安倍さんは今、すごく辛い選択をしているのだろう。
諦めずにこのまま気持ちを消していくか、思いきってぶつけて玉砕して忘れるか。
どちらも苦痛だ。
なにかをするチャンスすら与えられず、結果のみを突きつけられるのだから。

振られてしまうと決まっているわけではないけれど、しかしフィクションのようにうまく行く期待を持つほど子供でもない。
ダメージの少ない終わり方を望むのは、当たり前の行動だ。
ならば───

 「どこまで本気で先輩に近づきたいと思ってる??」

 「え?」

 「本気具合によっては協力できないこともない。けど無傷ではいられない」

驚いた安倍さんが目を万丸くして私を凝視する。
あんぐり口を開けて、何か言いたそうにパクパク、お魚のように。

 「ちょ、なに?どゆこと??」

 「今から私が彼のところに行って接点持てるように頼んでみる。彼女の有無を聞き出したり近付きたがってる友達がいるから会って欲しいってお願いするくらいなら出来る。でもそこまでしか出来ない。どう?乗る?」

荻野先輩を見ながらそう提案すると、

 「ええっ!?」

さらに驚いた安倍さんが辺りに響く勢いで声を張った。
通学中の生徒が一斉にこっちへ視線を向ける。
幸い普通科の棟までは届いていないようだ。
こちら側の生徒も、ただの談笑からの奇声ということでまたすぐ視線をはずした。