好きとか愛とか

元気がなく見えたあれはなんだったんだろう。

 「くっそ、課題むちゃくちゃだされた」

ベンチにだらしなく腰を下ろした壱矢が、背もたれにうなだれてぼやきを入れる。

 「あぁ…課題…」

なるほど、ぐったりしたのはそのせいか。

 「そっちは?」

 「それなりです」

進学校の進学クラスだからそれなりに出される。
普通科の学校と比べると、それなりという答えではなくなるのだけれど。
壱矢は受験生だから私よりももっと過酷な課題が出されているだろう。

想像すると、まぁ、壱矢のこのうなだれ具合は納得だ。
普段課題がたんまり出ていても最初からこんなにうなだれることはないけれど、出された当日にやりたくないオーラを放つ壱矢は珍しい。
弱音を吐くことが少ない壱矢がこうなるということは…。

二年後の自分を想像して血の気が引く。
私もきっと壱矢と同じように、課題の多さにげんなりしていることだろう。
そんな私たちの思いなどお構いなしに、目の前にある公園は穏やかさを保っている。

小さな公園だけど、遊具もちゃんと揃っていて、真夏でなければこの時間は小さい子や散歩の高齢者で賑わっていることが多い。
今は私と壱矢だけで、貸し切り状態だ。
太陽光線は相変わらず容赦なく降り注いでいるけれど、日陰まではその勢いは及ばない。
気温は高い。
けど、直射日光がない分日陰でもまだ過ごせるくらいだ。

今日はまだ風も吹いているので、噎せ返す熱風も定期的にさらってくれる。
汗ばんでいた肌の上を、風が滑ればひんやり冷たい。
さわさわと、葉っぱの擦れる音が耳に心地いい。

隣に座る壱矢をこっそり盗み見る。
公園を眺める壱矢の額や首筋にうっすら汗が浮かんでいて、低い声を作り出す喉仏が日に照らされて光っている。
男の人であることをまた感じさせられた。
ドキドキがまた始まる。

ダメだ、今こんなに動機が激しくなったら卒倒してしまう。
喉元でばくばくしている鼓動をおさえようと、私は持っていた水筒を鞄から取りだた。
注いでいる最中、壱矢が手のひらで汗を拭うのが見えた。