後悔はしてないけど、壱矢と顔を合わせづらいのがやりにくい。
普段から無愛想なのでそれに何割か足されたくらいのものだから、壱矢も違いに気付いていないだろうけど。

とにかく、この二つが私を支配していて、生活の基盤を侵略するほど存在感を放っている。
そのうち面倒がられて結局分からずじまいになるのかな、とか。
そんなことが、今まで奥津家で暮らしてきた悩みに加算されていた。

 「ねぇねぇ、壱ちゃん夏休みの海祭りいく??」

昼休み、昼食を食べた終えてまったりしてきた頃、安倍さんがお菓子をつまみながら聞いてきた。

 「行かない」

 「えー、そうなのー??」

残念そうに俯いて、ポッキーをポリポリ食べている。
安倍さんの言う祭りとは、町内市内合わせて夏休みにあちこちで行われる祭りのことで、なかでも休み開始直後にある一番大きな海祭りのことだ。
海沿いにたくさんの屋台が並んで、盛大な花火が有名な祭り。
県あげての祭りで、まだどこも祭りをやっていない時期に開催されるため、他府県からも人がどっと押し寄せる。
私も母親や中学のときの友達と行っていたが、再婚してからは止まっている。

 「そっかぁ」

 「安倍さん今年は荻野先輩と行くの??」

荻野先輩の名前を出したとたん、安倍さんの顔が真っ赤に染まった。
何かのスイッチを押してしまったのだろうか、原理が理解できない私は呆然とするほかない。
今まで荻野先輩の話題を振っても、ここまで茹で上がることなんか無かったのに。