わからない。
分からないけど、
壱矢が望むなら、私は、
私は──────

 「どこまでも…、どれだけでも」

壱矢にならいいと思った。
どこまででも、どれだけでも。
触ってほしい。
そして感じてほしい。
私の胸の高鳴りと、私の温度を。
もっと、もっと、深く、探ってほしい。

 「殺し文句かよ」

手のひらに唇が触れる。
私の反応を見ながら、今度は手首にキスをする。
壱矢の唇の感触と温度が、育てたい嬉しいを煽って止まない。
手首から肘の近く、二の腕まで上がってくると、全身にキスされているような感覚さえ覚えた。

なのに少しも怖くなくて。
事件が解決したからとは違う、別の意味で私は嬉しいを感じていた。
耳元に寄せられた唇が、薄く開く。

 「いいの?もっと」

 「はい…」

頷いて答えると、今度は首筋に軽くキスをされる。

 「ん…」

触れるか触れないか、そんな弱さなのに、そこだけ嫌に存在感が増した。
キスはしたこと無いけれど、これはなまじキスされるよりよっぽど────

 「先輩、こういう…」

 「ない、壱にしかしたことない」

最後まで言いきる前に、先を読み取った壱矢が次の言葉をさらってった。
他の誰かにもこうやって優しく触れたのかと思うと、嬉しいが悲しいに飲まれそうになった。
ちょっとした悲しいにさえ飲まれてしまうほど、私の嬉しいはまだ小さいらしい。
体全身を埋め尽くすほど大きいのに。
まだ足りない。