好きとか愛とか

あんな人の隣歩けたらとかうっとりしてなかった??
やっぱり憧れと惚れたの違いが分からない。
好きな人と一緒に歩いたりしたいのではないのだろうか。
それを想像して胸を熱くさせるものではないのだろうか。
先程の安倍さんは、好きな人とは違う壱矢に完全に溶けてしまっていた。
 
 「私の好きな人はね?あの人、奥津先輩の隣歩いてる荻野英志先輩」

 「誰?」

興味のない人間にはとことん無関心な私は、荻野英志なる先輩が誰か分からなかった。
壱矢の両隣には男の先輩二人が歩いている。

 「あっちの左側のメガネかけた人だよ」

あー、
あの隣のメガネの。
いかにも頭が良さそうな、かっこいいような普通のような男子生徒が爽やかな笑顔を浮かべていた。
憧れと好きになる人のタイプは違うものなのだな、と、そんなことを新たに学んだ。

 「でも棟も違うし先輩だし、接点ないから諦めるしかないんだけどね」

荻野先輩を切ない目で追いかけた安倍さんが、震える唇を噛んだ。
その仕草が、いやに自分とリンクする。
この顔、知ってる…。

 「なんで?」

 「だって、っ、無理でしょどうやっても。私の事なんか知らないだろうし見てくれないだろうし、それに、いきなり話しかけたりしたら絶対変に思われちゃう。そんな勇気もないしね」

これが恋する女の葛藤というやつなんだろうか。
確かに、いきなり現れて好きです付き合ってくださいは、成功率が低いだろう。