埃っぽい匂いが充満している。
電話の音、パソコンの音、何かのアラームの音、いろんな音が飛び交う中で、私と壱矢は長椅子に座って婦警さんを待っていた。
あの日お世話になった婦警さんだ。

あれから出掛ける準備をして、半ば急ぎ足で警察署に来た私たちは、入り口で待ってくれていた婦警さんと一緒に刑事課に通された。
本来は保護者同伴らしいのだが、婦警さんが事情を説明して保護者抜きでも可となった。
私が今のところ刑事事件にしないということと、何かの役に立てればいいという事も考慮されたのだろう。

私が面通しするのは、決着をつける方がいいと思ったから。
どんな奴だったのかを見て、そいつが刑務所に行く手助けが出来ればそれでいい。
訴えを起こさないのだから、それくらいの事だけでもしておきたかったのだ。
それくらいとは言っても、自分を襲った犯人をまた見なければならないというのは、口で言うほど楽なものではない。

隣に座る壱矢の手を握りしめ、不安と恐怖を分散させた。
家を出るときからここについても、壱矢はずっと私の手を握ってくれていて、さっきみたいに強く力を込めてもそのまま好きにさせてくれている。
多分手の甲には、私の爪の跡が深く残っているはずだ。
痛いはずなのに、壱矢はなにも言わずに握り返してくれる。

どれくらい待っただろう。
楽しいことを待つ時間は心が浮かれるのに、逆の場合は途方もない緩いスピードで時が過ぎていく感じがする。