普段わがままもおねだりもしないから、こんなときくらいというところだろうか。
それには異論なかった。

 「俺戻ったら行くから、下の戸締まり頼む」

 「はい」

壱矢が二階へ上がるのを見送ってから、自分も下の戸締まりを確認する。
鍵をかける手が震えて、自分でも制御できない。
怖さか緊張か、はたまたその両方か。
体は血の気が引いていて、両手のひらには無意味に汗が滲んでいる。

落ち着かせるために深呼吸するが、全くおかげがない。
今日、犯人の面通しをしたら本来の私に戻れるのだろうか。

どうなるか分からない今後の展開が恐怖を引き上げ、真っ暗な闇が襲ってくるのを、私はその場でただ感じるしかなかった。