好きとか愛とか

今日はなんでまた、こうも自分を形容するに相応しくない言葉ばかり聞かされるのか。
私はそんなんじゃない。
見た目だって、中学の頃はそんなふうに言われたことなどなかったし、ごくごく普通でその辺にいる女子とたいして変わらない。
なのに…。

 「そんなふうに言うの安倍さんくらいだから」

頭でひねり出した返し文句は我ながら芸がないなと思った。

 「壱ちゃんは彼氏とかいたこと無いの?」

 「全く。誰も言い寄ってくれない」

生まれたこのかた、付き合うどころか告白すらされたことありません。

 「そうなんだっ、うわぁ、予想外だなぁ」

なにが?どこが?

 「安倍さんは?付き合ったりしたことあるんじゃないの?」

 「えぇぇっ、いないよぉ。勉強ばっかりだったし今もそうだし…。でも、もし彼氏が出来たらこういう人がいいなぁっていう憧れはいるよー??」

 「好きな人?ってこと?」

 「まさかぁ、違う違うっ。ただかっこいいなぁって見惚れてるだけだけど……あっ!」

 「えっ、なにっ?」

憧れと好きな人との違いが分からず、出遅れてしまった私につんざくような安倍さんの声が刺さった。
びっくりして荷物を落としそうになってしまう。
なんなのっ!!?

 「あそこっ、ほらっ、あの人っ」

 「あの人?なに?どういうこと?」

なぜか小声になった安倍さんが遠くの方を指さし、私もつられてそちらへ目を向けた。