好きとか愛とか

認めていたことさえ気付かないなんて、私はどうしてしまったんだろう。
壱矢といると居心地悪いのに、その居心地の悪さを気に入ってるなんて、絶対認めたくなかったのに。

もう認めるしかなかった。
居心地悪くて逃げ出していたあの頃とは居心地の悪さの意味も違っていて、その居心地の悪さが産み出す激しい動悸も安心に繋がっていることを、もう、認めなければならないほど私に浸透していた。
気のせいなんかじゃない。
私は、壱矢といると、居心地悪くて安心するのだ。

 「壱って、鈍感って言われねぇ?」

不意に投げられた問いかけ。
何について、どういう類いのことでかは分からないが、記憶が正しければ思い当たる節はない。
そもそも鈍感とは?といったレベルである。

 「いえ、全く。言われたことありませんけど」

 「告白とかされる?」

え、なにその振り。

 「たまにあります」

ゼロではない。
何度かそういうことはあったというだけ。
今もたまにあるというだけ。

 「ふーん」

なんなの?
弄られていた腰ひもは今にもほどけそうで、手持ちぶさたすぎるのか絡まった指も私の手の甲を撫でて遊んでいる。

 「断ってんの?」

 「そうですね、気持ちには応えられないので」

なんでこんなこと正直に答えてんの?私も。
この会話が不毛なものにしか感じないのは、私だけなんだろうか。