好きとか愛とか

私にだってある程度はあるし、必要以上に求めないだけだ。
求めても、与えられないことを学んできたのだから、いくら裕福になってもそれは変わらない。

 「やったぁぁっ!喜美子さん大好き!」

母に抱きついて喜ぶ愛羅を見て、ほしくても諦めた分彼女にどれだけ与えられたのだろうかと、そんなことを考えてしまった。
未練がましい自分に嫌気がさす。

 「壱矢君もほしいものがあったら言ってくれていいのよ?」

 「いえ、俺は今のままで満足です。十分すぎるくらいにもらってますから」

 「そう?」

壱矢が休みにあまり出掛けないのは、お金が原因なんだろうか。
高校三年生と進学部のバイトは禁止されている。
双方勉学に勤しむべしという理念での禁止なのだが、そうなると遊ぶお金の工面にも困るわけで。
三年になるまでは壱矢もバイトをしていたから金銭的な問題がなかったからか、休みの日に遊びに出掛けることもあったけれど、今は友達の家に行く以外では月に一、二度あるかどうか。
出掛けたとしても、渡されてる小遣いでほしいものを買いに行き、買ったらすぐに帰る、そんな感じだ。
遊びに行くために遣うお金をもらうことに、躊躇しているとしか考えられなかった。

 「じゃあ留守番よろしくね。市内のモールへ行ってくるから少し帰りが遅くなると思うわ」

母が玄関を開けつつ、予定を告げるのが聞こえる。
見送りなんてしたくなかったので、洗い物を言い訳にキッチンへ引っ込んだ。

 「気を付けていってきてください」

 「いってきまーす」

 「愛羅、もうねだるなよ」

 「お兄ちゃんケチケチできらぁい」

 「俺だって金遣いの荒いワガママ女なんて嫌いだよ」

痛烈なパンチで見送った壱矢が、玄関の鍵をかけてリビングに戻ってきた。