好きとか愛とか

ほんと、どうでもいい…。
最後の漬け物を奥歯で噛み潰し、残っていたご飯を胃袋へ流し込んだ。

 「あら、もうこんな時間。買い物行かなくちゃ」

問題がクリアになり、平常の流れを取り戻したつもりでいる母が、壁にかかった時計を見て腰を上げた。
時刻は15時半。

 「あっ、愛羅も行きたい!ほしいリップがあるのー」

 「愛羅、お前買ってもらいすぎだろ。この前も服買ってなかったか?」

最近気が付いた壱矢の一般的さ。
暮らし始めた頃は、愛羅のワガママや思い通りにさせている恭吾さんのやり方が目だって壱矢の行動まできちんと見れていなかったけれど、壱矢と過ごす時間が増えてからは彼をフィルター抜きで見れるようになっていた。

ワガママさせている奥津家の男どもと思っていたけれど、その中に壱矢は含まれていなかった。
改めて壱矢を観察すると、ワガママさせまいと目に余る言動や行動には、きちんと注意をしていたのだ。
昨日今日始まったことではなく、長い間そうしてきていたことはすぐに分かった。
色眼鏡で観ていた自分が恥ずかしいくらいに。

越してきて間もない頃、恭吾さんが母にこぼしていたのを偶然聞いたことがあるのだが、大変衝撃的だった。
母親が居なかった分寂しい思いをさせないように多少融通を利かせてきたと言っていた恭吾さんに対し、母がそれに完全に合わせる発言をしたのだ。
耳を疑った。

母子家庭で親が二人揃っている家よりは裕福ではなかったため、切り詰めて生活をしていた母は、父親が居ないからといって私に多少の融通を利かせるなんてことはしなかった。
全て必要なもの、学業や生活範囲内の中で必要なものだけを与えてくれていた。
それは当たり前だし、その生活に何ら不満もなかったけれど、そうしてきた母が180度態度を変える発言をしたときは、正直憎ささえ感じたくらいだ。