好きとか愛とか

壱矢の言う“我慢”の中に私が含まれていることを、この人は分かってくれていた。
それがこのアウェイの中でも、味方がいるのだという証明みたいで、心が少しだけ軽くなった。

 「そう言ってくれて嬉しいわ。よかったわね、壱」

 「そうだね」

うれしいの?それ。
誰のためによかったの?
私じゃないよね。 
犠牲にするものが多すぎる好きなら、私はいらない。
後始末と向けられる役立たず感がきつすぎるから、渋々譲っているだけだ。
こんなことになるなら、ちょっとお腹が空いたくらいで下に降りてこなければよかった。
利用価値があるから大好きなんて、そんな言われ方をされてどう喜べばいいのだろうか。
あまりに酷だ、この二人は。

愛羅が望めばだいたいのものが手に入る。
再婚前もそうだったのだろうが、今はそれよりもっと手に入っていることは明白だ。
そしてそれを自覚していることも。
どうすれば周りの人間が自分の欲に添って動いてくれるのかも、ちゃんと把握している。

けどどこかのタイミングで頭を打つことは必然だ。
このままで通るはずがない。
だがそれは今じゃないし、その頭を打たせるのも、今のままでは世の中渡っていくことが出来ないことを教えるのも、私の役目じゃない。
私の役目は、役目は…、
ただ、住みやすくすること。
波風をたてず、普通の家族を維持する手助けをすること。

ぶっちゃけ、愛羅がこの先ワガママが原因で社会生活に支障が出ようが、知ったこっちゃない。
私にとっては、いちいち比較されたり姉らしくしろなど言われたりしなければ、後はどうでもいいのだから。