「ごめん、壱」

ため息と一緒に、壱矢の心底申し訳ないといった謝罪が降ってきた。

 「丸くおさまってよかったです」

 「………………………」

おさめ方なら知っている。
ただ、我慢が辛いだけで簡単なこと。
その辛さが日々蓄積されるので、息苦しくなるといった、簡単なことだ。

 「ありがとね、壱。愛羅ちゃんよかったねぇ」

 「うんっ、嬉しいぃっ、おいしそうっ。いっちゃんありがとうっ!大好き」

そばへ駆け寄ってきた愛羅の髪を撫で、安堵した表情を浮かべて私を見ている。
なにがありがとうなんだろう。
それは私のために作ったんだよね。
私、泣く泣くお茶漬けにしたんだよ、母さん。
お茶碗を出し、盛ったご飯の上にお茶を淹れた私は、恨みがましい目で母を睨んだ。
こんな自分も、こんな気持ちにさせるこの家族も、大嫌いだ。
漬け物を乗せ、ダイニングテーブルまで移動すると、私の後を追ってきた壱矢が席に着いた。
いただきますをして、たくあんを一口噛る。

日曜の昼下がりは大嫌いだ。
家族がのんびり過ごす定番の曜日だが、アウェイな私にとっては息苦しさしか感じない日。
恭吾さんが休日返上の接待ゴルフに出掛けていていないぶん、まだましかもしれない。

 「愛羅ちゃんは壱が大好きなのねぇ」

さっきの一悶着はどこへやら。
何事もなかった様子で能天気な事を口走っている。

 「大好きぃぃっ、だって愛羅が欲しいって言うものはなぁんでも譲ってくれるんだもーん。だから大好きぃ!」

お茶漬けをすする手が止まった。
あからさまなくらいの物欲と打算。
そして私の利用価値。
駄々をこねたらその裏で我慢する人間がいる、そう言った壱矢の言葉がよみがえる。
顔を上げるとこちらを見ている壱矢と目が合った。
小声で「悪い」と渋い顔をしている。