これを食べてからまだ二時間ほどしか経っていないのに、もうお腹が空いたとは驚きだ。
そのせいか、最近少し丸くなった気がするが、それは言わない方が得策だと思う。

 「それは壱の昼飯。我慢しろ」

 「でもお腹空いたっ」

 「じゃあ別のもん食えばいいだろ。わざわざ壱の飯に手ぇつけんなよ。意地きたない」

 「意地汚くないもんっ!トンカツはさっき一杯食べたからちょっとお腹に重いけど、うどんなら食べれるんだもん」

おっと、まずい。
少しばかり空気がおかしくなって来た気がする。
最初のうちは窘める程度の口調だった壱矢だが、だんだんイライラが混ざった声色に変化していて、愛羅もまた腹立たしさを隠すこと無く突っかかり始めていた。
二人の視線にも棘がびしばしで、ソファに座ってテレビを観ていた母も不安げな顔で様子を窺っている。
止め時を見計らっているようだが、恐らく母には無理だろう。
だって、グラスを置いた壱矢の手付きは苛立ちを通り越して怒りに到達していたから。

 「愛羅、ワガママ言うな。お前中心に世界が回ってる訳じゃないんだよ。お前が駄々こねたら、その裏で誰かが我慢することになるんだよ。それくらい理解して行動しろ。逆の立場だったら耐えられないことを、他の人に押し付けるな」

いつになく厳しく低い声に、怒りの矛先を向けられていない私でさえ動揺してしまう。
愛羅が肩大きく震わせてビクついたのが、いつの間にかもたれ掛かる勢いでくっついていた体から伝わってきた。