「困っているかと思いまして。それにいつも助けられていますので、私も助けられたらなと。でも先輩はああいうの慣れっこでしたよね。楽しそうに腕組まれてましたし。とんだ見きり発進でした」

いやみも混ぜてやったのに、壱矢はまるで意に介していない。

 「いや、嬉しかったよ。ヤキモチ妬いてもらったし。ほんとの彼女っぽかった」

 「妬いてませんから」

 「あそ」

誰がヤキモチなんて。
それは好きな人に対して持つ感情で、彼氏彼女のふりをしている私たちには縁の薄いものだ。
私はただの義理の家族なんだから。

 「ですが、自分で振りほどけましたよね、彼女達の拘束」

見た感じ、壱矢は手慣れていて扱いだってお手のものといった雰囲気だったし、あんなことがしょっちゅうなら慣れていても当たり前である。

 「振り払おうかなと思ったけど、壱の姿が横目に見えて、この場面見たらどうするかなって気になったもんだから、任せてみた」

まさか私の存在に気がついていたなんて思いもしなくて、腹の中でそんな企みがあったなんて可能性としてもなかった。
ということは、私の行動も全部楽しんで見ていたということなのだろうか。

 「悪趣味です」

こういうのを食えないというのでなければなんなのか。
試されたみたいでいい気はしない。
けれど、腕を取られてくっつかれていたときより気分はましだった。
なんなんだろう、ほんとに。

 「次からは止めてください」

 「つぎもあんの?」

 「なかったですか?私お役御免でいいですか?」

 「いや、ある。まだ特権もち」

他の女子なら喉から手が出るほど欲しい、“奥津壱矢の彼女”という特権。
私にとっては未知の世界の、厄介ごと特権だった。

 「というか、私泣いたりしませんけど」

 「あぁ、つい」

 「泣くような女がいいんですか?」

私だったらごめんだ。
期限取ったり甘やかしたり、気を遣ってばかりで多分疲れてしまう。

 「いや、全然。まぁ、普段強気な分泣いたらそそられるというか?」

なんだそれは。
萌える、みたいなものなのだろうか。