これからまた一ヶ月間、美聖と息吹のすれ違いの生活が始まるのだろう。


だから、その前に───、




「息吹」




美聖が隣の息吹の名前を呼ぶ。美聖の声に息吹が彼の方を向く。呼んだら気がついてくれる。この単純なことが奇跡なのだ。


だから、まだ美聖の声が届くうちに。




「年明けの1月1日の息吹の時間を、俺にくれる?」




美聖は声が震えないようにするのが精一杯だった。ゆっくりと息吹へ向けて右手を伸ばす。小指だけを立てて、約束の形を作った手を、真っ直ぐと息吹へ近づける。



息吹が美聖の顔を見つめ、そっと美聖の手を見下ろす。それから、自身の小指を、美聖の小指に絡めた。




「約束」



絡められた互いの小指が、きゅ、ときつく約束を結んだ。