木村が事務所の練習室に赴くと、一番奥の部屋だけ明かりが点っていた。


静まり返った空間に、微かに聴こえてくるcoc9tailの曲と、キュ、キュ、とシューズの裏が床に擦れる音がする。




「(……まったく、)」




ガラス張りの扉から部屋を覗けば、全面鏡の前でひとり、ただただ徹底的に踊る息吹がいた。


彼女のストイックさに、木村はcoc9tailのマネージャーになった当初からずっと驚きと尊敬と、心配が伴っていた。



力強い眼差しで鏡を見つめ、激しいダンスを繰り返し繰り返し踊る。


木村から見れば既に完璧に思える振りも、彼女にとっては及第点に及ばないのだろう。



メンバー全員での打ち合わせは午後の2時には終えていた。現時刻は23時過ぎ。……彼女はいったい、いつからここで練習していたのだろう。