「…………」

 シェリーの横を無言で通り過ぎたクリストファーは、ドアノブに手をかけ扉を開いた。

「誰も入れるな」

 そう言いながらクリストファーは部屋に足を踏み入れ、シェリーの返答を待たずに扉を閉める。

 暗い室内を照らしているのは、魔力が流れる鉱石を用いて作られた魔鉱ランプの柔らかな光。

 ランプのすぐ近くにあるベッドには、高熱に苦しむアリアの姿があった。


「う……うう……」


 瞼をきつく閉じたアリアの顔はひどく険しい。
 苦痛に耐えるようにしながら、そばにある黒いぬいぐるみにしがみついていた。

 熱にうなされ、呼吸を荒くした小さな体はぶるぶると震えている。

 そんなアリアの姿をクリストファーはじっと見下ろした。


「……がい、さま」

 ふと、か細い声がアリアの唇からこぼれ落ちる。

 一度は聞き逃したクリストファーだったが、アリアは続けて縋るように声に出した。

「…………おね、がい。お父、様……わたし……を、ころさないで…………」