アリアが眠る部屋を離れたサルヴァドールは、黄金の魔力を体に纏わせて外を浮遊した。

 やってきたのはグランツフィル公爵邸本館。
 とばりに紛れて夜風に乗り、鼻をスンと嗅いである場所を探す。

「みつけた」

 案外早く発見できた。
 どうやら目的の人物は寝酒を嗜んでいたようだ。
 外から観察してみるが、あまり酒は進んでいないように見える。

(お、あいつが根気よく騒いだせいか、ちょっとは隙ができてるようだな)

 サルヴァドールは対象を――クリストファーをじっと見据えて口角をあげた。

 改めて確認してみても、悪魔が精神に侵入していることは間違いないだろう。
 そして、かなり力のある悪魔だということがわかる。

 高位の悪魔ほど人間に取り憑くとき、無駄な匂いを残さない。
 サルヴァドールは気づけたが、クリストファーに取り憑くやつはそれなりに厄介な悪魔だろう。

「さて、少しちょっかい出してみるか」

 クリストファー自身に、そして彼の精神に潜り込んでいる悪魔に向けて。

 サルヴァドールは片手をあげて、自身に纏わせていた黄金の魔力をクリストファーへと放った。