「お嬢様……」

 シェリーはほんのりと哀愁を漂わせながら私を見ていた。

 私がクリストファーに相手にされていないことを知っているから、なんとも言えなくて困っているのだろう。

 シェリーが別館のメイドとして勤め始めたのは、私がクリストファーによって王都から連れてこられた時期と近いらしい。

 そして、クリストファーに見向きもされない私の身の回りの世話を一番に買って出てくれたのがシェリーなのだと、最近になって知った。

 クリストファーに大切にされていないからと、ほかのメイドが私を極力遠ざけようとする中で、シェリーだけはその流れに反したのだ。

(リデル視点のストーリーではわからなかったこと。ちゃんとアリアにも、親身になってくれるメイドがいたんだよね)

 しかし、これもゲームを読み進める中であまり触れられなかったことだった。

(そもそも私の……アリアの情報って少ないんだよね。リデル目線では内気で引っ込み思案な友達って印象だったから)

 そして、アリアは父親であるクリストファーに必要とされたかった。
 関心を得たいがために作中でクリストファーが素材として欲していたリデルを、この公爵領に招いてしまう。

(ま、今はシナリオを思い出せたんだから、そんなこと絶対にしないけど。クリストファーが取り返しのつかないことになる前になんとかしないと!)

 心配してくれるシェリーには申し訳ないけれど、朝の挨拶は続けなければならない。


 ***


 そうして私は、そのあと一週間ほどクリストファーに朝の挨拶を実行した。

「お父様ー! おはようございます! みなさんも、お稽古頑張ってください」

 数日も経つとほかの騎士たちも私の出現に慣れたのか、驚かなくなっていた。
 笑顔を振りまけば、むしろ好意的に見てくれているようだった。

 正直なところクリストファーの反応はいまいちだったけれど、私が声をかけると立ち止まってくれるようにはなっていた。