「最近、2度目の退院をしたばかりなんだ」

「そんなに悪かったの?」

「あのさ…。話す前に一応聞くけど、エイラは俺のこと全く知らないの?」

僕は、1年の頃から期待の陸上選手として、そして今は、落ちぶれた果てにあんなことをやらかした哀れな奴として…いろんな意味で、教師だけでなく生徒からも注目され続けてきた。

地元のメディアでも、頻繁に僕のことは取り上げられていたのだが、エイラは全く知らないようだったので、少し不思議だ。

「うん。昨日まで知らなかった。でも可笑しいよね。ウツってルックスいいし、一度見たら顔ぐらいは覚えてたと思うのに」

お互い、全く同じことを思っていたのかと思うと、苦笑いしてしまう。

「じゃあ、ゼロから話さないとわからないか…。昔から、唯一の取り柄が陸上だったから、俺はこれまでの人生、総てを陸上だけに捧げてきた。周りの大人にしても、俺にはとにかく走り続けて記録を更新しろ、勉強なんか二の次でいい、という感じだったし。高校もスポーツ推薦だったから、大学もスポーツ推薦だろうし、とにかく記録を更新し続けて…。それでいつか、年齢的に限界が来たら、次は指導者としてやっていくんだろうと、当たり前のことのように思ってた」

エイラは、綺麗な瞳で僕を見つめたまま話を聞いている。