九条賢人side
「あのさ、俺達もう一回やり直せない?」
屋上に愛依を呼び出すと、俺は勇気を出して告げた。
花火大会の夜よりも緊張していたかもしれない。でも、心のどこかではもしかしたらという気持ちがあった。
まだ少しでも愛依に俺への気持ちがあるなら、今度こそうまく付き合っていきたい。
愛依とはもちろん違う学校だけど、俺も東京の大学に進学して寮生活になる。
今度はもう愛依に寂しい思いはさせない。二度と同じ失敗は繰り返したくないから。
「もう絶対愛依のこと寂しくさせないから。絶対に幸せにするから。だから――」
「それはできない。また付き合ってもきっと私達は同じことの繰り返しになると思う」
愛依の言葉に確かな決意が込められているのに気が付いて俺はすぐさまそれを否定する。
「そんなの分からない。今の俺なら絶対に愛依を大切にする」
約束できる。だから、また俺と――。
「私が大切にして欲しかったのは、付き合ってた時だよ。今じゃない」
愛依がそっと微笑む。
「もう遅いよ。連絡が欲しかったのも、会いたかったのも、声が聞きたかったのも付き合ってた時。でも、賢人は向き合ってくれなかった」
「でも、あの時まだ俺のことが好きだってーー」
「どんなに好きでも我慢できないこともあるんだよ。だから、もう戻らない。賢人も前を向こうよ」
どうしても俺じゃダメなのか?別れた後も、愛依のことを考えない日はなかった。
朝方、眩しい日差しで目覚めて思う。あの日に戻っていたらって。戻れたらもう二度と愛依を泣かせたりしない。
未だに未練がましく猫のキーホルダーをバッグにつけているし、愛依にもらったミサンガは切れることなく俺の足に巻かれている。
本当にこれで終わるのか……?もう、会えないのか?
瞳から自分の意思とは関係なく、一粒の涙が零れ落ちた。
今日で二人の関係が本当に終わってしまうかもしれないと思うと、耐えられなかった。
人前で泣くことなんてない。
高校最後の試合で負けた時だって、卒業式だって泣かなかったのに愛依のこととなると俺は自分を見失う。
別れてから愛依の存在が自分の中でこんなにも大きかったと気付くなんて、俺はとんだ大バカ者だ。
少し距離を置けば時間が解決してくるかもって甘い期待も抱いてた。
でも、時が止まっていたのは俺だけで、愛依は知らぬ間にずっと遠くにいってしまっていた。
「もし次に賢人に彼女ができたら、私みたいに我慢させちゃダメだよ。ちゃんと向き合ってあげて」
やめてくれ。そんなの嫌だ。考えたくもない。
「俺は愛依以外の人との未来なんて考えたくない」
「ねっ、約束だよ」
そっと右手の薬指を差し出され、俺は右手を後ろに隠した。
「賢人。最後の私のワガママを聞いて?」
「本当にもう無理なのか……?」
もう一度、やり直したい。愛依とこのまま終わりになるなんて嫌だ。
女々しいと思われてもすがりつきたい。俺は、まだ愛依が――。
「うん。ごめんね。でもね、これだけは言える。私は賢人と付き合えて幸せだったよ。だから、賢人と付き合った日々を忘れない。ずっと大切な思い出にする」
喉元まで沸き上がる嗚咽を俺はぐっと奥歯を噛んで飲み込む。
「愛依にとって、俺はもう過去形なんだな……」
俺はずっと愛依に甘えてた。
愛依が我慢していたことに本当は気付いていたのに、向き合おうとしなかった。
連絡だってしようと思えばできたのに、忙しいことを理由に後回しにしていた。
愛依なら分かってくれるなんてそんなおごったことを考えて愛依を傷付けてしまった。
俺が悪い。俺のせい。俺の――。
もしもあの時、俺がちゃんと愛依に向き合っていればこんな結末にはならなかったんだろうか……。
そんな後悔の念が募り俺を苦しめる。
愛依が真っすぐ俺を見つめながら、右手の小指を俺に向ける。
俺は愛依が今もまだ大好きだ。
だからこそ、最後のワガママを聞いてあげようと思った。
俺が今、してあげられることはそれしかないと知り涙が溢れる。
そっと右手を差し出すと、二人の指先が触れ合って絡む。
愛依の目から零れ落ちた涙が頬を濡らすと同時に、俺も泣いた。
「泣くなよ、愛依。フラれてんの俺だよ?」
「……ははっ、そうだよね」
指を離したのは愛依だった。指先が離れた瞬間、俺は堪えられず嗚咽交じりに泣いた。
もう本当に終わりなのか?
二人で過ごしたあの日々を思い出にしたくなんてない。これからも愛依と一緒にいたい。
それが俺の望みだ。
みっともないぐらい咽び泣く俺を愛依は温かく見守る。
俺と付き合っている間、愛依もこんな風に涙を流したんだろうか。
あまりにも遅すぎた。俺はこんなにも愛依を愛していたって気付かされる。
だけど、もう。愛依の人生に俺の居場所はない。
だから、もう。
前を向いて生きていかないといけないって分かってる。分かってるのに……。
「ありがとう、賢人。賢人と過ごした日々は絶対に忘れないから」
「俺も、愛依のこと忘れない。俺を好きになってくれてありがとう」
ここでさらに『別れたくない』なんてすがりつくことはみっともなくてできなかった。
この期に及んでも愛依に嫌われたくないとか、ダザイ奴って思われたくないと思ってしまう。
もう愛依の気持ちは俺にはないのに。
口では「ありがとう」なんて綺麗ごとを言っていても、諦めるなんてできない。
辛すぎて、俺はまだ愛依との日々を思い出にできない。
未練を残す俺とは違い、愛依の顔はすっきりとしている。
俺はまだ、愛依を諦められない。諦めたくなんてない。
もしも叶うならまた同じ人生を歩みたい。
次こそは絶対に幸せにする。約束するから。
だからもう一度ーー。
「あのさ、俺達もう一回やり直せない?」
屋上に愛依を呼び出すと、俺は勇気を出して告げた。
花火大会の夜よりも緊張していたかもしれない。でも、心のどこかではもしかしたらという気持ちがあった。
まだ少しでも愛依に俺への気持ちがあるなら、今度こそうまく付き合っていきたい。
愛依とはもちろん違う学校だけど、俺も東京の大学に進学して寮生活になる。
今度はもう愛依に寂しい思いはさせない。二度と同じ失敗は繰り返したくないから。
「もう絶対愛依のこと寂しくさせないから。絶対に幸せにするから。だから――」
「それはできない。また付き合ってもきっと私達は同じことの繰り返しになると思う」
愛依の言葉に確かな決意が込められているのに気が付いて俺はすぐさまそれを否定する。
「そんなの分からない。今の俺なら絶対に愛依を大切にする」
約束できる。だから、また俺と――。
「私が大切にして欲しかったのは、付き合ってた時だよ。今じゃない」
愛依がそっと微笑む。
「もう遅いよ。連絡が欲しかったのも、会いたかったのも、声が聞きたかったのも付き合ってた時。でも、賢人は向き合ってくれなかった」
「でも、あの時まだ俺のことが好きだってーー」
「どんなに好きでも我慢できないこともあるんだよ。だから、もう戻らない。賢人も前を向こうよ」
どうしても俺じゃダメなのか?別れた後も、愛依のことを考えない日はなかった。
朝方、眩しい日差しで目覚めて思う。あの日に戻っていたらって。戻れたらもう二度と愛依を泣かせたりしない。
未だに未練がましく猫のキーホルダーをバッグにつけているし、愛依にもらったミサンガは切れることなく俺の足に巻かれている。
本当にこれで終わるのか……?もう、会えないのか?
瞳から自分の意思とは関係なく、一粒の涙が零れ落ちた。
今日で二人の関係が本当に終わってしまうかもしれないと思うと、耐えられなかった。
人前で泣くことなんてない。
高校最後の試合で負けた時だって、卒業式だって泣かなかったのに愛依のこととなると俺は自分を見失う。
別れてから愛依の存在が自分の中でこんなにも大きかったと気付くなんて、俺はとんだ大バカ者だ。
少し距離を置けば時間が解決してくるかもって甘い期待も抱いてた。
でも、時が止まっていたのは俺だけで、愛依は知らぬ間にずっと遠くにいってしまっていた。
「もし次に賢人に彼女ができたら、私みたいに我慢させちゃダメだよ。ちゃんと向き合ってあげて」
やめてくれ。そんなの嫌だ。考えたくもない。
「俺は愛依以外の人との未来なんて考えたくない」
「ねっ、約束だよ」
そっと右手の薬指を差し出され、俺は右手を後ろに隠した。
「賢人。最後の私のワガママを聞いて?」
「本当にもう無理なのか……?」
もう一度、やり直したい。愛依とこのまま終わりになるなんて嫌だ。
女々しいと思われてもすがりつきたい。俺は、まだ愛依が――。
「うん。ごめんね。でもね、これだけは言える。私は賢人と付き合えて幸せだったよ。だから、賢人と付き合った日々を忘れない。ずっと大切な思い出にする」
喉元まで沸き上がる嗚咽を俺はぐっと奥歯を噛んで飲み込む。
「愛依にとって、俺はもう過去形なんだな……」
俺はずっと愛依に甘えてた。
愛依が我慢していたことに本当は気付いていたのに、向き合おうとしなかった。
連絡だってしようと思えばできたのに、忙しいことを理由に後回しにしていた。
愛依なら分かってくれるなんてそんなおごったことを考えて愛依を傷付けてしまった。
俺が悪い。俺のせい。俺の――。
もしもあの時、俺がちゃんと愛依に向き合っていればこんな結末にはならなかったんだろうか……。
そんな後悔の念が募り俺を苦しめる。
愛依が真っすぐ俺を見つめながら、右手の小指を俺に向ける。
俺は愛依が今もまだ大好きだ。
だからこそ、最後のワガママを聞いてあげようと思った。
俺が今、してあげられることはそれしかないと知り涙が溢れる。
そっと右手を差し出すと、二人の指先が触れ合って絡む。
愛依の目から零れ落ちた涙が頬を濡らすと同時に、俺も泣いた。
「泣くなよ、愛依。フラれてんの俺だよ?」
「……ははっ、そうだよね」
指を離したのは愛依だった。指先が離れた瞬間、俺は堪えられず嗚咽交じりに泣いた。
もう本当に終わりなのか?
二人で過ごしたあの日々を思い出にしたくなんてない。これからも愛依と一緒にいたい。
それが俺の望みだ。
みっともないぐらい咽び泣く俺を愛依は温かく見守る。
俺と付き合っている間、愛依もこんな風に涙を流したんだろうか。
あまりにも遅すぎた。俺はこんなにも愛依を愛していたって気付かされる。
だけど、もう。愛依の人生に俺の居場所はない。
だから、もう。
前を向いて生きていかないといけないって分かってる。分かってるのに……。
「ありがとう、賢人。賢人と過ごした日々は絶対に忘れないから」
「俺も、愛依のこと忘れない。俺を好きになってくれてありがとう」
ここでさらに『別れたくない』なんてすがりつくことはみっともなくてできなかった。
この期に及んでも愛依に嫌われたくないとか、ダザイ奴って思われたくないと思ってしまう。
もう愛依の気持ちは俺にはないのに。
口では「ありがとう」なんて綺麗ごとを言っていても、諦めるなんてできない。
辛すぎて、俺はまだ愛依との日々を思い出にできない。
未練を残す俺とは違い、愛依の顔はすっきりとしている。
俺はまだ、愛依を諦められない。諦めたくなんてない。
もしも叶うならまた同じ人生を歩みたい。
次こそは絶対に幸せにする。約束するから。
だからもう一度ーー。