春野愛依side

年末は家族と一緒に炬燵に入って紅白を観て、年明けは三花と初詣に行った。

お参りの後にチョコバナナと焼きそばとりんご飴を買っておみくじを引いた。

三花は大吉で私は可もなく不可もない吉だったけど、凶よりはましだろう。

三が日が終わると、予備校に通い詰めてできる限り暇をつくらないようにして過ごす。

勉強は嫌いだけど始めてしまえば余計なことは考えずにいるから助かった。

クリスマスの日以降、私は賢人への連絡を極力抑えることに決めた。

一番そばで賢人を見ていたはずの私だけど、一番賢人のことを分かっていなかっていないのも私だった。

私がクリスマスは賢人と何をしようとのんきに心を弾ませていた裏で、賢人はサッカーの練習ができないという苦悩を抱えていたのかもしれない。

それに気付いてあげられなかった自分を悔いた。

あっという間に3学期が始まり慌ただしい生活に戻り、賢人と久しぶりに顔を合わせた。

しばらく会っていなかったから言葉を交わす前はほんの少しだけ緊張したけど、賢人はいつものように「おはよう」と笑いかけてくれた。

それが嬉しくもあり悔しくもあり悲しくもあり寂しくもある。

それどころかちょっぴり憎たらしい。

私が賢人のことをあれこれ考えるのと同じぐらい、賢人だって私のことを考えて欲しい。

私と同じ熱量で好きだと思って欲しい。

夜になると声が聞きたくなって、賢人の名前を探してスマホの画面をタップしようとしてそれを寸前で理性が食い止める。

賢人の重荷になりたくないから声が聞きたくても、メッセージを送りたくても我慢する。

ブブッて夜にスマホが震えると賢人かもって期待してスマホに飛びついては落胆する日々。

賢人はそんな私の気持ちには気付かない。

賢人は魔法使いでもなんでもないし私が口に出して言わなければそんなの絶対に伝わらない。

それでもこの気持ちに気付いて欲しいって心のどこかでは思っていて、そんな自分の女々しい部分がどんどん嫌になる。

そうやって勝手に期待して落胆してはまたもしかしてって期待する。そんな苦しいループずっと続いてる。

「ちょっと翔太のところ行ってくる」

昼休みに昨日のテレビドラマの話を私がするのをうんうんっと聞きながらも上の空の賢人は、山上君がトイレから戻ってきたことに気付いて席を立つ。

「これヤバくない?」「すげー。このポジショニング半端じゃないな」とかスマホを取り出して山上君と二人で盛り上がる賢人の姿は私と一緒にいる時と違って生き生きしてる。

その姿を見ていたくなくて私はそっと目を逸らす。

賢人は3年生が引退した後、サッカー部の部長に指名されたと今日風の噂で聞いた。

サッカーの話を賢人は私にしないし、私も賢人に聞かない。

クリスマス以降、ふたりの間でその話題は暗黙の了解でなされることはない。

あの日だってお互い言いたいことを言えばいいのに、それをせずにギリギリのところで言葉を呑み込んだ。

サッカーの話が出れば私達はどうやったってぶつかり合ってしまう。

「大丈夫?」

私の席までやってきた三花が心配そうに私の顔を覗き込む。

「わかんない」

私は分からなくなっていた。好きだけど、辛くて。それでもやっぱりまだ賢人が大好きだから。