昼前に校内放送が流れた。
台風の接近が予定よりも早まったらしい。
今後さらに荒れた天気になるという予報となり、交通機関への影響も出始めたという情報が入り急遽昼を待たずに下校するようにと指示が出された。
予想外の早帰りとなり教室中がどっと騒がしくなり歓喜の渦に包まれる。
こういう時の教室内の一体感が私は好きだったりする。
教室内のあちこちで今日どこ行く?とかお昼一緒に食べようよという会話が聞こえてくる。
帰りのHRを行うために教室に入ってきた稲田は、私達生徒たちのこれからの行動をすべてをお見通しで寄り道せずに帰れよと釘をさす。
もちろん守ろうとするのはごく一部の生徒達だけでみんなテンションが高くお祭り騒ぎだ。
稲田が出て行くと、山上君が賢人に歩み寄り声をかけた。
「さっききたメッセージ見た?」
「あー、見てない」
「これから、サッカー部で集まってファミレスで昼飯食うんだって。賢人もくるっしょ?」
「今日?」
賢人が隣の席の私を伺うようにチラリ視線を向けたのが分かった。
私は気付かないふりをしてカバンにクマのマスコットのついたペンケースをしまう。
私と賢人の約束を山上君は知らないから悪気はないと分かっているのに、これからの楽しいデートに水を差されたみたいでなんだか胸の中がモヤモヤする。
「来週の練習試合の相手校の分析したいらしいよ」
「あー、マジか。ごめん。今日は無理だ」
「なんで?用でもあったのか?」
そう尋ねた山上君が何気なく私のいる方向へ視線をスライドさせた。目が合うと「ああ」とすべてを察したように頷いた。
「そういうことか。分かった。適当にみんなに言い訳しとく」
「悪いな。頼む」
「いいって。じゃ、お二人さん仲良くな!」
そう言って慌ただしく教室を出て行った山上君の背中を目で追う。
私との約束は言い訳しないといけないことなの?
賢人はポケットから取り出したスマホを確認していた。
その横顔にほんの少しの焦りが滲みだしているのに気がついて私は複雑な気持ちになる。
私とのデートよりサッカー部の集まりに行った方が良いよと賢人の背中を押すべきなのかもしれない。
行ってきなよって言えば賢人はきっと申し訳なさそうな表情を浮かべながらもサッカー部の集まりに行くだろう。
もしもだ。もしも、昨日いちかちゃんと賢人のことを知らなければ、私はたぶん快く賢人を送り出せた。
だけど今は違う。少しでも長い時間賢人と一緒にいたい。
いちかちゃんと賢人が過ごした時間以上に、私は賢人を知りたいし賢人を感じたい。
そうじゃないとたまらなく不安になって胸が押しつぶされたみたいに苦しくなるから。
だから――。
「賢人、行かなくていいの?」
私はズルい質問をして賢人の気持ちを試す。
私とサッカー部のみんな、どっちが大事?って賢人が答えたくない質問を投げつける。
賢人を追い詰めてしまうって分かっていたけどそれでも聞かずにはいられなかった。
「あー、大丈夫」
賢人はポケットにスマホを突っ込みながら答える。
「そっか」
無理をしているのが分かっていたのに、私は気付かないふりをした。
自分を優先してしまったワガママな自分に罪悪感を覚えてチクチクと胸が痛む。
家の周りが水浸しだと連絡を受けて慌てて帰る三花と手を振って別れると、私は賢人と一緒に教室を後にした。
「思ってる以上に雨ヤバいな。色々行きたかったけど、どっか行くのは危険かもな」
地面を叩きつけるような激しい音が耳に届く。
立ち止まって廊下の窓から外を見ると、おそろしい勢いで雨が降っていた。
窓ガラスに顔を近付けて外を見つめる。
「確かにこれは無理かも」
人のうなり声のような風音のあと、雨が激しく窓を叩き、驚いて思わず後ずさりする。
「あのさ」
賢人がほんの少しためらいながらいった。
「うちくる?」
トクンっと心臓が鳴った。
「今日、うちの親仕事で家にいないから」
彼氏どころか男の子の家にすら行ったことのない私はちょっぴり動揺したけどそれを隠して頷く。
「うん、いく」
何故か予感めいたものがあった。私達は今日、一歩前に進む気がする。
台風の接近が予定よりも早まったらしい。
今後さらに荒れた天気になるという予報となり、交通機関への影響も出始めたという情報が入り急遽昼を待たずに下校するようにと指示が出された。
予想外の早帰りとなり教室中がどっと騒がしくなり歓喜の渦に包まれる。
こういう時の教室内の一体感が私は好きだったりする。
教室内のあちこちで今日どこ行く?とかお昼一緒に食べようよという会話が聞こえてくる。
帰りのHRを行うために教室に入ってきた稲田は、私達生徒たちのこれからの行動をすべてをお見通しで寄り道せずに帰れよと釘をさす。
もちろん守ろうとするのはごく一部の生徒達だけでみんなテンションが高くお祭り騒ぎだ。
稲田が出て行くと、山上君が賢人に歩み寄り声をかけた。
「さっききたメッセージ見た?」
「あー、見てない」
「これから、サッカー部で集まってファミレスで昼飯食うんだって。賢人もくるっしょ?」
「今日?」
賢人が隣の席の私を伺うようにチラリ視線を向けたのが分かった。
私は気付かないふりをしてカバンにクマのマスコットのついたペンケースをしまう。
私と賢人の約束を山上君は知らないから悪気はないと分かっているのに、これからの楽しいデートに水を差されたみたいでなんだか胸の中がモヤモヤする。
「来週の練習試合の相手校の分析したいらしいよ」
「あー、マジか。ごめん。今日は無理だ」
「なんで?用でもあったのか?」
そう尋ねた山上君が何気なく私のいる方向へ視線をスライドさせた。目が合うと「ああ」とすべてを察したように頷いた。
「そういうことか。分かった。適当にみんなに言い訳しとく」
「悪いな。頼む」
「いいって。じゃ、お二人さん仲良くな!」
そう言って慌ただしく教室を出て行った山上君の背中を目で追う。
私との約束は言い訳しないといけないことなの?
賢人はポケットから取り出したスマホを確認していた。
その横顔にほんの少しの焦りが滲みだしているのに気がついて私は複雑な気持ちになる。
私とのデートよりサッカー部の集まりに行った方が良いよと賢人の背中を押すべきなのかもしれない。
行ってきなよって言えば賢人はきっと申し訳なさそうな表情を浮かべながらもサッカー部の集まりに行くだろう。
もしもだ。もしも、昨日いちかちゃんと賢人のことを知らなければ、私はたぶん快く賢人を送り出せた。
だけど今は違う。少しでも長い時間賢人と一緒にいたい。
いちかちゃんと賢人が過ごした時間以上に、私は賢人を知りたいし賢人を感じたい。
そうじゃないとたまらなく不安になって胸が押しつぶされたみたいに苦しくなるから。
だから――。
「賢人、行かなくていいの?」
私はズルい質問をして賢人の気持ちを試す。
私とサッカー部のみんな、どっちが大事?って賢人が答えたくない質問を投げつける。
賢人を追い詰めてしまうって分かっていたけどそれでも聞かずにはいられなかった。
「あー、大丈夫」
賢人はポケットにスマホを突っ込みながら答える。
「そっか」
無理をしているのが分かっていたのに、私は気付かないふりをした。
自分を優先してしまったワガママな自分に罪悪感を覚えてチクチクと胸が痛む。
家の周りが水浸しだと連絡を受けて慌てて帰る三花と手を振って別れると、私は賢人と一緒に教室を後にした。
「思ってる以上に雨ヤバいな。色々行きたかったけど、どっか行くのは危険かもな」
地面を叩きつけるような激しい音が耳に届く。
立ち止まって廊下の窓から外を見ると、おそろしい勢いで雨が降っていた。
窓ガラスに顔を近付けて外を見つめる。
「確かにこれは無理かも」
人のうなり声のような風音のあと、雨が激しく窓を叩き、驚いて思わず後ずさりする。
「あのさ」
賢人がほんの少しためらいながらいった。
「うちくる?」
トクンっと心臓が鳴った。
「今日、うちの親仕事で家にいないから」
彼氏どころか男の子の家にすら行ったことのない私はちょっぴり動揺したけどそれを隠して頷く。
「うん、いく」
何故か予感めいたものがあった。私達は今日、一歩前に進む気がする。