こういう時に限って練習時間は延びる。
部活が終わり一刻も早く愛依に連絡しようと思っていたのに、スマホ画面をタップした瞬間画面が真っ黒になった。
「マジかよ……」
充電切れだ。
今日はなにもかもがうまくいかない。
練習試合でもここぞという場面でシュートを外して顧問に怒鳴り散らされたし、普段はしないようなミスも連発してしまった。
翔太と別れると走って家に帰る。
玄関を開けると階段を駆け上がっていき部屋に入るとスマホの充電を始める。
しばらく待ち電源を入れると、愛依からのメッセージが届いていた。
【愛依:聞きたいことがあるの】
俺は小さく息を吐くと、充電につないだままのスマホを耳に当てる。
1コール目で電話に出た愛依の声はどこか掠れていた。
「遅くなってごめんな。今帰ってきた」
ベッドにそのまま仰向けに倒れ込む。
母親に見られたら汚い制服のままベッドに寝るなと怒号が飛ぶだろう。
体が鉛のように重たい。もう1ミリたりともここから動きたくないというぐらい疲れ果てていた。
『今日は、遅かったんだね』
愛依の言葉はほんのわずかなトゲを含んでいた。
「練習長引いちゃってさ」
『そっか』
「話したいことってなに?」
『山上君に何か聞いてない?』
「なにかって?」
『今日の部活の休憩中、誰かとしゃべってたよね?』
愛依が聞きたいことが涼森のことだって分かっている。
けれど、どうしても自分の口からその名前を出したくないようだ。
すぐに本題に入らず翔太の名前を出す愛依にほんのわずかな苛立ちを覚える。
愛依は何も悪くない。
ただ俺が涼森としゃべっていたところを見て不安になってしまったんだと思う。
分かっているのに今日の俺の心には余裕がない。
心も体も疲れ果てていて電話をするためにスマホを耳に当てているのもしんどい。
「涼森のこと?」
『そう。どうしていちかちゃんと付き合ってたこと教えてくれなかったの?』
愛依が涼森を下の名前で呼んでいることにわずかに動揺する。
いつのまに仲良くなったんだ……?愛依は涼森と俺のことをどこまで知っているんだろう。
「ごめん。聞かれなかったから元カノのことわざわざ話す必要はないかと思って」
俺が逆の立場だったら、愛依の元カレの話なんて聞きたくない。
どんな奴なのかも知りたくない。だから、俺も話さなかっただけ。
やましいことがあるから涼森のことを隠しておこうとしたわけじゃない。
『そっか。そうだよね……。ごめん、なんか今日仲良くしゃべってるの見たら不安になっちゃって』
「俺と涼森はもう何でもないよ。今の彼女は愛依だけだから」
『私だけ……』
愛依は自分に言い聞かせるように繰り返す。
去年の夏前、俺と涼森は別れた。どちらが悪いとかそういうんじゃない。
些細な価値観の違いから少しづつすれ違い始めて、二人の間に入った亀裂を互いに修復しようとしなかった。
正直、最後の方はほとんど付き合っているとはいえないぐらいの状況だった。
「涼森とは中学の時の担任の話をしてたんだ。来月結婚するから少しずつお金を出し合ってお祝いをしないかって言われて」
『それだけ?』
「それだけ。しゃべったのも久しぶりだったし。愛依が心配することは何もないから」
『そっか。そうなんだね』
突拍子のない思考だって分かってるけどこういう時、空が飛べたらって思う。
もしくはもっと俺が大人で車を運転できればすぐに愛依の家に行くのに。
誤解を解いてギュッと抱きしめてキスをして。
俺が好きなのは愛依だけだよって安心させることができるのに。
『わかった。ごめんね、疑ったりして』
「いや、いいって。俺こそごめん」
誤解が溶けたことにホッとして電話を切ると、スマホを掴んだまま大の字になる。
「お兄~!?夕ご飯食べないの~?」
階段の下から妹が叫ぶ。
「いらない」
「ちょっと!!聞いてんの!?」
俺の声が届かないのか、更に大きな声で呼ばれる。
もう返事はしなかった。重たい瞼が閉じていく。
今日の自分のプレーミスを振り返ると叫び出したくなる。あんなミスをするなんて信じられなかった。
意識が遠のいていく。
……やめよう。今日は疲れたし、今は何も考えたくない。
部活が終わり一刻も早く愛依に連絡しようと思っていたのに、スマホ画面をタップした瞬間画面が真っ黒になった。
「マジかよ……」
充電切れだ。
今日はなにもかもがうまくいかない。
練習試合でもここぞという場面でシュートを外して顧問に怒鳴り散らされたし、普段はしないようなミスも連発してしまった。
翔太と別れると走って家に帰る。
玄関を開けると階段を駆け上がっていき部屋に入るとスマホの充電を始める。
しばらく待ち電源を入れると、愛依からのメッセージが届いていた。
【愛依:聞きたいことがあるの】
俺は小さく息を吐くと、充電につないだままのスマホを耳に当てる。
1コール目で電話に出た愛依の声はどこか掠れていた。
「遅くなってごめんな。今帰ってきた」
ベッドにそのまま仰向けに倒れ込む。
母親に見られたら汚い制服のままベッドに寝るなと怒号が飛ぶだろう。
体が鉛のように重たい。もう1ミリたりともここから動きたくないというぐらい疲れ果てていた。
『今日は、遅かったんだね』
愛依の言葉はほんのわずかなトゲを含んでいた。
「練習長引いちゃってさ」
『そっか』
「話したいことってなに?」
『山上君に何か聞いてない?』
「なにかって?」
『今日の部活の休憩中、誰かとしゃべってたよね?』
愛依が聞きたいことが涼森のことだって分かっている。
けれど、どうしても自分の口からその名前を出したくないようだ。
すぐに本題に入らず翔太の名前を出す愛依にほんのわずかな苛立ちを覚える。
愛依は何も悪くない。
ただ俺が涼森としゃべっていたところを見て不安になってしまったんだと思う。
分かっているのに今日の俺の心には余裕がない。
心も体も疲れ果てていて電話をするためにスマホを耳に当てているのもしんどい。
「涼森のこと?」
『そう。どうしていちかちゃんと付き合ってたこと教えてくれなかったの?』
愛依が涼森を下の名前で呼んでいることにわずかに動揺する。
いつのまに仲良くなったんだ……?愛依は涼森と俺のことをどこまで知っているんだろう。
「ごめん。聞かれなかったから元カノのことわざわざ話す必要はないかと思って」
俺が逆の立場だったら、愛依の元カレの話なんて聞きたくない。
どんな奴なのかも知りたくない。だから、俺も話さなかっただけ。
やましいことがあるから涼森のことを隠しておこうとしたわけじゃない。
『そっか。そうだよね……。ごめん、なんか今日仲良くしゃべってるの見たら不安になっちゃって』
「俺と涼森はもう何でもないよ。今の彼女は愛依だけだから」
『私だけ……』
愛依は自分に言い聞かせるように繰り返す。
去年の夏前、俺と涼森は別れた。どちらが悪いとかそういうんじゃない。
些細な価値観の違いから少しづつすれ違い始めて、二人の間に入った亀裂を互いに修復しようとしなかった。
正直、最後の方はほとんど付き合っているとはいえないぐらいの状況だった。
「涼森とは中学の時の担任の話をしてたんだ。来月結婚するから少しずつお金を出し合ってお祝いをしないかって言われて」
『それだけ?』
「それだけ。しゃべったのも久しぶりだったし。愛依が心配することは何もないから」
『そっか。そうなんだね』
突拍子のない思考だって分かってるけどこういう時、空が飛べたらって思う。
もしくはもっと俺が大人で車を運転できればすぐに愛依の家に行くのに。
誤解を解いてギュッと抱きしめてキスをして。
俺が好きなのは愛依だけだよって安心させることができるのに。
『わかった。ごめんね、疑ったりして』
「いや、いいって。俺こそごめん」
誤解が溶けたことにホッとして電話を切ると、スマホを掴んだまま大の字になる。
「お兄~!?夕ご飯食べないの~?」
階段の下から妹が叫ぶ。
「いらない」
「ちょっと!!聞いてんの!?」
俺の声が届かないのか、更に大きな声で呼ばれる。
もう返事はしなかった。重たい瞼が閉じていく。
今日の自分のプレーミスを振り返ると叫び出したくなる。あんなミスをするなんて信じられなかった。
意識が遠のいていく。
……やめよう。今日は疲れたし、今は何も考えたくない。