九条賢人side

怒涛のように夏休みが終わった。

俺と愛依が付き合い始めたという話はあっという間にクラス中に知れ渡り、それは部内にまで広がった。

クラスでも愛依のことをいいなと思っていた男子は思った以上に多かったらしく俺が付き合っていると知ると、露骨に肩を落とした。

付き合っていることを公にしたことで最初は周りの奴らにからかわれたものの、徐々に受け入れてもらえるようになり一週間も経つと誰も俺達のことに触れなくなった。

二人っきりの時の愛依はよく甘えてくるのに、教室にいるときや人前では絶対にそういう態度を見せない。

本当に付き合ってるのかと不思議に思われるぐらいだ。

でも、愛依の可愛いところを俺しか知らないことに優越感を覚えた。

三限の数学の授業が終わると、隣の席の愛依が「あー!」と叫ぶ。

「どうした?」

「さっき返ってきた数学の小テスト赤点決定なんだけど……。今日の放課後追試だぁ……」

絶望に打ちひしがれて、目をつぶって宙を仰ぐ。

夏休み限定で染めていた髪色もすっかりもとに戻った。

あの日の大人っぽい愛依も可愛いけれど、今の愛依もいい。

結局、髪型も髪色も愛依ならばどれも可愛いんだ。

「マジで?」

「ホントやんなっちゃう。親にも予備校通えってしつこく言われてるんだよね」

「そっか。予備校か……」

俺達の通う高校の生徒は、卒業後ほとんどが大学へ進む。

高2の夏を過ぎクラス内でも予備校に通う人が増えたように思う。予備校のテキストや問題集を持ち込んで休み時間に勉強している人もいる。

まだ高2だと悠長に考えていたけれど、将来を見据えて行動を起こす人間はたくさんいる。

「あっ、でもまだ私は通う予定はないよ」

「なんで?」

「だって、予備校通ったら賢人と電話したりできなくなっちゃうし。雨の日とかで急に部活なくなって一緒に遊べないのも辛いし」

「いや、それは考えなくていいって。俺にばっかり合わせたら愛依が疲れるし」

愛依の気持ちは嬉しいけど、すべてを俺に合わせてもらうわけにいかない。

「全然疲れないよ!だから、もっとちゃんと勉強する。赤点とらない程度に、ね!」

付き合ってから愛依は俺のサッカーの予定を優先してくれる。

ワガママも言わないし、俺が言うことを何でも受け入れてくれるのは嬉しい反面、なんだか申し訳ない気持ちになった。