そのあとの練習は突然降り始めた雨のおかげで早めに終わった。

最近は練習続きで疲労を感じている部員が多くケガに繋がることを危惧してか、顧問に今日は自主練をせずにこのまま帰宅するようにと促された。

19時前に部活が終わるなんて奇跡のようなものだ。

以前から部室に置きぱなしになっていた傘が役に立った。

校門の前で翔太や他の部員と別れると、俺はすぐさま春野にメッセージを送った。

【春野もう家?】

友達とクレープを食べに行くって言っていたけど、春野は傘を持っていなかった。

折り畳み傘を持ってるかもしれないし、もしかしたらもう家かもしれない。

それでも心配になって連絡するとすぐに返信が来た。

【春野:まだ。雨降ってきたから雨宿りしてる】

【友達も一緒?】

【春野:ひとりだよ。みんなと別れた後に雨降ってきちゃって】

俺は傘の柄をぐっと握った。

【今どこ?】

【春野:駅の近くの本屋さん】

【今から行くからそこにいて】

【春野:部活は?】

【今日は早く終わったから。なんかあったら電話して】

俺はポケットにスマホを押し込むと、家とは反対の駅方向に向かって駆け出した。

部活を終えて疲れているはずなのに春野のことを考えると、そんなことどうってことないように思えた。

ダラダラと駅に向かって歩いている翔太たちサッカー部の集団を追い越していく。

「は?賢人じゃん!お前、どこ行くの?」

翔太が驚いたように声を上げる。

それでも走る速度は落とさない。

「駅!」

「つーかチャリは?まだなおんねぇの?」

「……まだ!」

「嘘つけ!!」

「また明日なー!!」

背中を向けたまま答えると翔太が叫ぶ。

修学旅行のあとから、毎日練習後に春野と電話をして帰るのが日課になった。

そのために、俺は自転車を使わずせっせと徒歩通学を続けている。

家でしゃべることもできるけど、夕飯と風呂を済ませると遅い時間になり春野に迷惑がかかる。

だから、春野と繋がっていられる時間は部活を終えて家に帰るまでの時間しかない。

夜道に自転車でスマホを持って片手運転は危険だ。それに自転車じゃあっというまに家に着いてしまう。

歩調を遅くして少しでも長く春野としゃべりたいと思っているなんて翔太に知られたら、「恋する乙女かよ!」ってバカにされるに決まってる。

翔太にはバレバレだったらしいけど、自転車はパンクしてしまったということにしておいた。

傘を叩く大粒の雨は激しさを増す。

それでも一人でいる春野のことを思い、さらに走るスピードを上げた。