バスを降りて先生たちの話が終わると各自班ごとの活動になった。
合流した私達四人は予定通り札幌市の時計台へ向かった。
「こんな街中にあるんだ……」
時計台は私の予想に反してビルに囲まれた場所に位置していて、その背後には時計台よりもはるかに高いビルが建っている。
「ねぇ、写真撮ろうよ」
「うん!!」
私と三花が角度を変えて何度も写真を撮り続ける横で、男子二人は退屈そう。
「ねぇ、アンタ達も一緒に撮んない?」
「え!」
三花の言葉に男子二人ではなく私が一番早く反応した。
それって九条も一緒にってことだよね……?
九条とは連絡先は知っていても一緒に写真を撮ったことはない。
SNSは繋がってるけど九条のアカウントは閲覧用なのか投稿は一件もない。
「おー、いいね!」
「俺はいいって」
「賢人、お前そんなこというなんてノリ悪ぃーぞ!!」
ノリノリの山上君が少し嫌そうな九条を無理矢理引っ張ってくる。
「俺写真苦手なんだって」
九条は私の隣まで来て少し照れたように私から顔を背けた。
「ていうか、もっとくっついてよ」
三花の言葉に反応した山上君がグイグイと九条の体を私の方へ押す。
そのせいで私の肩と九条の腕は触れ合うどころかぺったりとくっついてしまっている。
薄いワイシャツ越しに互いの体の一部がくっついていると思うだけで体温が急上昇する。
待って。さすがにこれは心臓が持たない。
九条のほうから自分のものじゃない甘い匂いがして息も吸えないぐらいに緊張してしまう。
「じゃ、撮るよ~」
自撮り棒を構えた三花。私は顔の横でピースサインをして必死になって笑顔をつくる。
出来る限り可愛く映りたいところだけど、そこまで顔を作っている余裕はない。
頼むから白眼にだけはなりませんように。
カシャッとシャッターを切る音がした瞬間、私は写真を確認するふりをしてすぐに九条から離れた。
「どう?うまく撮れた?」
なんてことない風を装って三花のスマホを覗き込みながら必死に平静さを取り戻そうとする。
「見て。いい感じじゃない?」
「……うん、いい感じ」
画面の中の三人は仲良さそうに肩を寄せ合って楽しそうに笑っている。
九条一人だけはほぼ真顔だ。
ほんの少しだけレンズから視線を外しているけど、バッチリ写真に九条の顔が映っている。
「今送ったよ~」
「きたきた!ありがと」
三花から送られてきた写真を見つめて思わず微笑む。
これでいつどこにいても九条の顔を眺めることができる。
「つーか、俺微妙に半目なんだけど!お前らだけ可愛く撮れててズルくね?」
「あははは!ホントだ!さすが山上!」
三花が山上君の肩をバシッと叩く。
「いってぇ!さすがってなんだよ!お前バカにしてんだろ!」
山上君が不服気に言い返す。
ひとまず、自分の顔がそれなりに映っていることに安堵する。
こういうこともあろうかとバスの中で何度もメイクと髪型……主に前髪のセットを念入りにしたかいがあった。
今まであまり親しくなかった三花と山上君は、修学旅行を通じて急速に親しくなっていったような気がする。
なんとなくそりが合うんだろう。
三花は山上を『ムカつく奴』って言うけど、端から見ると夫婦漫才を見ているみたいで面白い。
言い合いなのか、じゃれないなのか分からない二人を見つめながら私と九条は目を見合わせてフッと笑う。
「あいつら完璧に俺らの存在忘れてない?」
「ねっ。そうだ、さっきの写真見る?」
私は画面を九条に差し出した。
私よりも背の高い九条は腰を少し屈めて私の画面を覗き込む。
「おー、良く撮れてんじゃん」
「でしょ?なんかいい写真だよね。これぞ、修学旅行って感じでさ!」
「いや違くて」
九条はそう言うと、画面をタップして私の顔だけをアップにした。
「なんで私の……」
「春野が可愛く撮れてるってこと」
「……え」
なんて返したらいいのか分からず困ったように笑う私に気付かず九条が続ける。
「写真、俺にも送ってくんない?」
「いいよ!送るね」
写真を送ることなんて簡単なことなのになんだか気持ちが浮わついて指がうまく動かせない。
喉の奥がキュッと詰まって胸の中に甘酸っぱい感情が込み上げてくる。
九条と一緒にいると私は私じゃなくなってしまうみたいに途端に余裕がなくなってしまう。
今まで誰かを好きかもって思ったこともあるけどこんな風になったのは初めてだ。
中学生の時に一つ年上の先輩に憧れて胸を焦がしていたときだってここまでじゃなかった。
今の私は九条の言動に一喜一憂してそのたびに心を揺さぶられてしまう。
今の私のような状態を恋する乙女と呼ぶのかもしれない。
「お、きた。ありがとな」
「旅行中、たくさん写真撮ろうよ。絶対思い出になるから」
そこまで言ってハッとする。
「あ、でも九条って写真苦手なんだよね?やっぱり嫌?」
「苦手だけど……春野が撮りたいなら我慢する」
少し照れくさそうに言う九条に全身がカッと熱くなる。
「い、いいよ。無理しないでも」
「春野が喜んでくれるなら無理したっていい」
目が合った瞬間、九条の顔がわずかに赤らんだ気がした。
その言葉がどういう意味なのか聞き返す間もなく、九条は私から照れ臭そうに顔を背けた。
「なぁ、ちょっと腹ごしらえしようぜ。味噌ラーメン食わね?」
三花と山上君の言い争いはいつの間にか終わっていた。
「う、うん。だねっ」
山上君の言葉に私達はぎこちなく頷く。
「ていうか、二人とも顔赤いけど大丈夫そ?」
「マジだ!つーか、さっきコソコソ二人で何かしゃべってたよな~?俺らには話せない内緒話か~?」
私と九条の反応を伺いながら、三花と山上君がからかう。
「ち、ちがっ!」
「そんなんじゃないから」
更に顔を赤らめた私達は、この後も延々と二人にからかわれ続けた。
合流した私達四人は予定通り札幌市の時計台へ向かった。
「こんな街中にあるんだ……」
時計台は私の予想に反してビルに囲まれた場所に位置していて、その背後には時計台よりもはるかに高いビルが建っている。
「ねぇ、写真撮ろうよ」
「うん!!」
私と三花が角度を変えて何度も写真を撮り続ける横で、男子二人は退屈そう。
「ねぇ、アンタ達も一緒に撮んない?」
「え!」
三花の言葉に男子二人ではなく私が一番早く反応した。
それって九条も一緒にってことだよね……?
九条とは連絡先は知っていても一緒に写真を撮ったことはない。
SNSは繋がってるけど九条のアカウントは閲覧用なのか投稿は一件もない。
「おー、いいね!」
「俺はいいって」
「賢人、お前そんなこというなんてノリ悪ぃーぞ!!」
ノリノリの山上君が少し嫌そうな九条を無理矢理引っ張ってくる。
「俺写真苦手なんだって」
九条は私の隣まで来て少し照れたように私から顔を背けた。
「ていうか、もっとくっついてよ」
三花の言葉に反応した山上君がグイグイと九条の体を私の方へ押す。
そのせいで私の肩と九条の腕は触れ合うどころかぺったりとくっついてしまっている。
薄いワイシャツ越しに互いの体の一部がくっついていると思うだけで体温が急上昇する。
待って。さすがにこれは心臓が持たない。
九条のほうから自分のものじゃない甘い匂いがして息も吸えないぐらいに緊張してしまう。
「じゃ、撮るよ~」
自撮り棒を構えた三花。私は顔の横でピースサインをして必死になって笑顔をつくる。
出来る限り可愛く映りたいところだけど、そこまで顔を作っている余裕はない。
頼むから白眼にだけはなりませんように。
カシャッとシャッターを切る音がした瞬間、私は写真を確認するふりをしてすぐに九条から離れた。
「どう?うまく撮れた?」
なんてことない風を装って三花のスマホを覗き込みながら必死に平静さを取り戻そうとする。
「見て。いい感じじゃない?」
「……うん、いい感じ」
画面の中の三人は仲良さそうに肩を寄せ合って楽しそうに笑っている。
九条一人だけはほぼ真顔だ。
ほんの少しだけレンズから視線を外しているけど、バッチリ写真に九条の顔が映っている。
「今送ったよ~」
「きたきた!ありがと」
三花から送られてきた写真を見つめて思わず微笑む。
これでいつどこにいても九条の顔を眺めることができる。
「つーか、俺微妙に半目なんだけど!お前らだけ可愛く撮れててズルくね?」
「あははは!ホントだ!さすが山上!」
三花が山上君の肩をバシッと叩く。
「いってぇ!さすがってなんだよ!お前バカにしてんだろ!」
山上君が不服気に言い返す。
ひとまず、自分の顔がそれなりに映っていることに安堵する。
こういうこともあろうかとバスの中で何度もメイクと髪型……主に前髪のセットを念入りにしたかいがあった。
今まであまり親しくなかった三花と山上君は、修学旅行を通じて急速に親しくなっていったような気がする。
なんとなくそりが合うんだろう。
三花は山上を『ムカつく奴』って言うけど、端から見ると夫婦漫才を見ているみたいで面白い。
言い合いなのか、じゃれないなのか分からない二人を見つめながら私と九条は目を見合わせてフッと笑う。
「あいつら完璧に俺らの存在忘れてない?」
「ねっ。そうだ、さっきの写真見る?」
私は画面を九条に差し出した。
私よりも背の高い九条は腰を少し屈めて私の画面を覗き込む。
「おー、良く撮れてんじゃん」
「でしょ?なんかいい写真だよね。これぞ、修学旅行って感じでさ!」
「いや違くて」
九条はそう言うと、画面をタップして私の顔だけをアップにした。
「なんで私の……」
「春野が可愛く撮れてるってこと」
「……え」
なんて返したらいいのか分からず困ったように笑う私に気付かず九条が続ける。
「写真、俺にも送ってくんない?」
「いいよ!送るね」
写真を送ることなんて簡単なことなのになんだか気持ちが浮わついて指がうまく動かせない。
喉の奥がキュッと詰まって胸の中に甘酸っぱい感情が込み上げてくる。
九条と一緒にいると私は私じゃなくなってしまうみたいに途端に余裕がなくなってしまう。
今まで誰かを好きかもって思ったこともあるけどこんな風になったのは初めてだ。
中学生の時に一つ年上の先輩に憧れて胸を焦がしていたときだってここまでじゃなかった。
今の私は九条の言動に一喜一憂してそのたびに心を揺さぶられてしまう。
今の私のような状態を恋する乙女と呼ぶのかもしれない。
「お、きた。ありがとな」
「旅行中、たくさん写真撮ろうよ。絶対思い出になるから」
そこまで言ってハッとする。
「あ、でも九条って写真苦手なんだよね?やっぱり嫌?」
「苦手だけど……春野が撮りたいなら我慢する」
少し照れくさそうに言う九条に全身がカッと熱くなる。
「い、いいよ。無理しないでも」
「春野が喜んでくれるなら無理したっていい」
目が合った瞬間、九条の顔がわずかに赤らんだ気がした。
その言葉がどういう意味なのか聞き返す間もなく、九条は私から照れ臭そうに顔を背けた。
「なぁ、ちょっと腹ごしらえしようぜ。味噌ラーメン食わね?」
三花と山上君の言い争いはいつの間にか終わっていた。
「う、うん。だねっ」
山上君の言葉に私達はぎこちなく頷く。
「ていうか、二人とも顔赤いけど大丈夫そ?」
「マジだ!つーか、さっきコソコソ二人で何かしゃべってたよな~?俺らには話せない内緒話か~?」
私と九条の反応を伺いながら、三花と山上君がからかう。
「ち、ちがっ!」
「そんなんじゃないから」
更に顔を赤らめた私達は、この後も延々と二人にからかわれ続けた。