プロローグ
9月。台風15号が関東に急接近していることもあり、天気予報通りの大雨となった。
勤めているスポーツメーカーから一歩外に出る。
地面を叩く大きな雨粒にげんなりしながら、傘を開くと風に煽られて途端に傘が裏返る。
「嘘だろ……」
――そういえば、あの日もこんな風に傘がひっくり返ったんだ。
でも、あのときは一人じゃなかった。
固く封じ込めていた過去の記憶がふいに蘇りそうになり慌てて思考を振り切る。
駅までは徒歩5分。傘を直して足を速めようとした瞬間、書店の軒先に立って雨宿りをしていた女性に目を奪われた。
――似てる。それはあまりにも唐突な出来事で息を吸うことすら忘れそうになる。
夢にまで見たあの人かもしれない。
その場に立ち止まり目を凝らす。
女性は軒先で俯いてスマホの画面に指を滑らせていた。
やっぱりそうだ。見間違えるはずがない。
女性と距離が縮まるほどに体中が熱くなる。
周りの声が消え失せたみたいになんの音もしない。
聞こえてくるのはバカみたいに大きくなる自分の心臓の音だけだ。
「――愛依(あい)」
名前を呼ぶと女性は驚いたように顔を持ち上げた。
目が合った瞬間、確信した。目の前にいるのが愛依であることを。
彼女はあの頃よりずっと大人びて洗練された大人の女性になっていた。
綺麗に施されたメイクに緩く巻いた髪を一つに束ね、小ぶりのピアスをつけている。
「……え、賢人(けんと)?」
あの頃と同じように名前を呼ばれて懐かしさが蘇る。
「やっぱり愛依だよな」
忘れたことなど一度もない。夢に見るぐらい、彼女と過ごした日々に後悔と未練ばかりが募った。
「すごい久しぶり。元気だった?」
思わず笑顔になる俺に、愛依はあの頃と同じように微笑み返した。
話したいことは山ほどあった。
なにから話そう。なにを聞こう。
こうやって再び出会えたのはきっと偶然なんかじゃない。
だから、もう一度ーー。
「愛依、あのさ――」
高校生時代の元カノと十年ぶりの再会を果たした俺は、まるで青春時代に戻ったかのように胸を高鳴らせた。
9月。台風15号が関東に急接近していることもあり、天気予報通りの大雨となった。
勤めているスポーツメーカーから一歩外に出る。
地面を叩く大きな雨粒にげんなりしながら、傘を開くと風に煽られて途端に傘が裏返る。
「嘘だろ……」
――そういえば、あの日もこんな風に傘がひっくり返ったんだ。
でも、あのときは一人じゃなかった。
固く封じ込めていた過去の記憶がふいに蘇りそうになり慌てて思考を振り切る。
駅までは徒歩5分。傘を直して足を速めようとした瞬間、書店の軒先に立って雨宿りをしていた女性に目を奪われた。
――似てる。それはあまりにも唐突な出来事で息を吸うことすら忘れそうになる。
夢にまで見たあの人かもしれない。
その場に立ち止まり目を凝らす。
女性は軒先で俯いてスマホの画面に指を滑らせていた。
やっぱりそうだ。見間違えるはずがない。
女性と距離が縮まるほどに体中が熱くなる。
周りの声が消え失せたみたいになんの音もしない。
聞こえてくるのはバカみたいに大きくなる自分の心臓の音だけだ。
「――愛依(あい)」
名前を呼ぶと女性は驚いたように顔を持ち上げた。
目が合った瞬間、確信した。目の前にいるのが愛依であることを。
彼女はあの頃よりずっと大人びて洗練された大人の女性になっていた。
綺麗に施されたメイクに緩く巻いた髪を一つに束ね、小ぶりのピアスをつけている。
「……え、賢人(けんと)?」
あの頃と同じように名前を呼ばれて懐かしさが蘇る。
「やっぱり愛依だよな」
忘れたことなど一度もない。夢に見るぐらい、彼女と過ごした日々に後悔と未練ばかりが募った。
「すごい久しぶり。元気だった?」
思わず笑顔になる俺に、愛依はあの頃と同じように微笑み返した。
話したいことは山ほどあった。
なにから話そう。なにを聞こう。
こうやって再び出会えたのはきっと偶然なんかじゃない。
だから、もう一度ーー。
「愛依、あのさ――」
高校生時代の元カノと十年ぶりの再会を果たした俺は、まるで青春時代に戻ったかのように胸を高鳴らせた。