20歳そこそこの男性に告白された。
 鏡に映る私は41歳になるオバサン。
 この姿にも慣れて、18歳の私の姿を思い出すことはなくなってきた。
 目立ちたくないから薄化粧しているし、生徒にピアノを教えているときは先生らしく丸眼鏡をかけている。
 太陽様の告白はきっと冗談だろうと思った。
 だって、親子ほどの年の差ですもの。
 そうよ、この国ではジョークがさかんなんだ。

「そんなわけないでしょう」
 ドスの効いた声でシナモンが言った。
 午後3時のティータイム。
 シナモンが用意してくれたお茶を飲む。
「だいたい、何故その場で断らなかったんですか? すぐに断れば、そんなに悩まれることもなかったでしょう」
 太陽様とお茶をして、帰り間際に太陽様に告白された。
 私は冗談かもしくはお世辞かと思い「あ、そうですか。失礼します」と聞き流した。
「だって、40歳のオバサンに告白してくるなんてオカシイじゃない!」
「…ご自身がモテることをお忘れなく」
 シナモンは座ると、頭をおさえこんだ。
「いや、私が綺麗で美しいのはわかってる。でも、この姿になって…ってあれ、シナモン私の本当の姿知っているんだよね?」
「勿論、存じております。あの性格の悪いお坊ちゃまからセシル様のことはウザいくらい自慢されてましたから」
 セシルという自分の本当の名前が懐かしい…
「私。この姿になってから男性に声かけられたことないし。視線感じたこともないし」
「それは、嫉妬深いテイリー様による魔法…」
 途中まで言いかけたシナモンは、ゴホッゴホッと咳き込む。
「え、テイリーがどうしたの?」
「いえ。何でもありません。太陽様は本気ですよ。こうなったら、一回デートでもして、はっきりと断ればいいじゃないですか」
「えー、なんでデートしなきゃいけないの」
 太陽様に告白された後、一日一回は太陽様に遭遇する毎日を送っている。
 何かと理由をつけては「奇遇ですね」と無邪気な笑顔で言われると何も言えなくなる。

 民間の騎士団として毎日、町をうろつきながら警護している太陽様。
 夜は女性一人歩くのは危険だと言うけど、この町で暮らしてから事件が起きたなんて聞いたことなんてない。
 暇なのか、何処へ行っても絶対に顔を合わせることになる。
「あ、先生。奇遇ですね。今度、お時間あるときにでもどこか行きませんか?」
 言われるたびに「忙しいので」と言うしかない。

「あー、面倒臭いなあ」