自宅にピアノがあるということ。
ピアノ自体の年数を見るからに、このピアノはイチゴのお母さんが使っていたのではないかと私は推測する。
イチゴは、弾き方は滅茶苦茶だけど。
全く弾けないってわけではない。
悪戦苦闘しながら、イチゴにピアノを教え、
ピアニストとして、ピアノの先生として生活していくことに。
…時間と共に慣れた。
年取ると、驚く回数が減って、すぐ慣れるんだなと思った。
同時に、すぐ疲れるから体力をつけようと暇なときは家で筋トレするように心掛ける。
毎日が馬鹿みたいに過ぎて行って。
ヒューゴとあの女のことを思い出す暇もないくらい忙しかった。
「エアー様、私もついて行っていいですか? 夕方、雨が降りそうですし。嫌な予感がするんです」
「嫌な予感って…出かける前に言われると凄く嫌なんだけど」
玄関でシナモンに言われ、私は「ふう」とため息をついた。
今日は木曜日。これから、イチゴのレッスンだ。
「大丈夫。私がエアー様をお守りします!」
ぼふんっと煙が出たかと思うと、シナモンは手のひらサイズの妖精になった。
「その姿だと、逆にまずいんじゃ?」
「大丈夫です。この姿のときは、エアー様にしか見えないようになっていますので」
急にシナモンの声が小さくなったので「うん?」と耳を近づける。
「…ちなみに、それも妖精の力ってこと?」
「もちろん!」
一体、魔力と妖力って何が違うんだろうと首を傾げながら家を出る。
シナモンって、この国ではアウトな気がしてならないんだけど…
気にしても仕方ないか。
イチゴ邸に着いて、ドアをノックすると。
ドタドタと地響きがしてドアが開いた。
じっと、大きな目でイチゴがこっちを見たので、
思わず肩に乗っているシナモンを見てしまった。
「早く入って、先生」
イチゴは急かすように言うと。
ドタドタと音をたてて走っていく。
あれ? と思ったのは、最近は制服姿が多いのに。
今日はピンク色のドレスを着ている。
ピアノの前に座ったかと思うと、イチゴはすぐに私が選んだ課題曲と本人が選んだ好きな曲を高速で弾き始めた。
「ちょっと、テンポが速いんじゃ?」
と突っ込んだのを無視して、イチゴは一気に弾き終えると。
「今日のレッスンは終わり!」
と立ち上がった。
「先生、私、これからレッドちゃんのお誕生日会に行くから。じゃあねっ!」
「えっ?」
にぃっと満面の笑みを浮かべたイチゴは、ダッシュで部屋を出て行ってしまう。
…ああ、これで何度目だろう。
目の前にある楽譜を眺めながら、ため息をついていると。
いなくなったはずのイチゴが再び部屋に入って来た。
「先生、太陽が病気で、上で寝ているから。看病してね。じゃ、バイバーイ!」
「えっ」
ドタドタと音を立てながら玄関の方へとイチゴは消えていく。
ぽかんとしていたけど。
天井を見て「えぇー」と思わず悲鳴を上げる。
「どうなさるんですか?」
肩に乗っていたシナモンが言う。
「…とりあえず」
私は部屋を出ると、すぅぅと鼻から息を吸い込んだ。
「すいませーん。誰かいませんか?」
私の声は、虚しく響いただけだった。
ピアノ自体の年数を見るからに、このピアノはイチゴのお母さんが使っていたのではないかと私は推測する。
イチゴは、弾き方は滅茶苦茶だけど。
全く弾けないってわけではない。
悪戦苦闘しながら、イチゴにピアノを教え、
ピアニストとして、ピアノの先生として生活していくことに。
…時間と共に慣れた。
年取ると、驚く回数が減って、すぐ慣れるんだなと思った。
同時に、すぐ疲れるから体力をつけようと暇なときは家で筋トレするように心掛ける。
毎日が馬鹿みたいに過ぎて行って。
ヒューゴとあの女のことを思い出す暇もないくらい忙しかった。
「エアー様、私もついて行っていいですか? 夕方、雨が降りそうですし。嫌な予感がするんです」
「嫌な予感って…出かける前に言われると凄く嫌なんだけど」
玄関でシナモンに言われ、私は「ふう」とため息をついた。
今日は木曜日。これから、イチゴのレッスンだ。
「大丈夫。私がエアー様をお守りします!」
ぼふんっと煙が出たかと思うと、シナモンは手のひらサイズの妖精になった。
「その姿だと、逆にまずいんじゃ?」
「大丈夫です。この姿のときは、エアー様にしか見えないようになっていますので」
急にシナモンの声が小さくなったので「うん?」と耳を近づける。
「…ちなみに、それも妖精の力ってこと?」
「もちろん!」
一体、魔力と妖力って何が違うんだろうと首を傾げながら家を出る。
シナモンって、この国ではアウトな気がしてならないんだけど…
気にしても仕方ないか。
イチゴ邸に着いて、ドアをノックすると。
ドタドタと地響きがしてドアが開いた。
じっと、大きな目でイチゴがこっちを見たので、
思わず肩に乗っているシナモンを見てしまった。
「早く入って、先生」
イチゴは急かすように言うと。
ドタドタと音をたてて走っていく。
あれ? と思ったのは、最近は制服姿が多いのに。
今日はピンク色のドレスを着ている。
ピアノの前に座ったかと思うと、イチゴはすぐに私が選んだ課題曲と本人が選んだ好きな曲を高速で弾き始めた。
「ちょっと、テンポが速いんじゃ?」
と突っ込んだのを無視して、イチゴは一気に弾き終えると。
「今日のレッスンは終わり!」
と立ち上がった。
「先生、私、これからレッドちゃんのお誕生日会に行くから。じゃあねっ!」
「えっ?」
にぃっと満面の笑みを浮かべたイチゴは、ダッシュで部屋を出て行ってしまう。
…ああ、これで何度目だろう。
目の前にある楽譜を眺めながら、ため息をついていると。
いなくなったはずのイチゴが再び部屋に入って来た。
「先生、太陽が病気で、上で寝ているから。看病してね。じゃ、バイバーイ!」
「えっ」
ドタドタと音を立てながら玄関の方へとイチゴは消えていく。
ぽかんとしていたけど。
天井を見て「えぇー」と思わず悲鳴を上げる。
「どうなさるんですか?」
肩に乗っていたシナモンが言う。
「…とりあえず」
私は部屋を出ると、すぅぅと鼻から息を吸い込んだ。
「すいませーん。誰かいませんか?」
私の声は、虚しく響いただけだった。