「実はこの前───⋯⋯」
そう話を切り出すと、䈎元さんは先日あったことを笘篠さんに話しはじめた。
放課後、数学を教えてほしいと優絆に頼んだ、あの日のことを。
わたしの心臓は、ドクンドクンと、イヤな音を立てたまま、鳴り止む気配が一向にない。
「えっ! 優絆くんに数学教えてもらったの?!」
「いや、それがさ⋯最上くん最初から教える気なかったみたいでさ。 最初から岩波くんに丸投げ状態」
「なにそれ! 思わせぶりだったってこと?!」
興奮状態の笘篠さんの声が、周囲に響き渡る。
通行人の視線が笘篠さんを捉えるものの、笘篠さん本人はまったく気づいていない様子。
「しかも岩波くんも、宮里さんと草柳さんを呼び止めるしさ〜! そのうえ最上くんは宮里さんと楽しそうに喋ってたし」
⋯⋯っ、気づかれて、いたのね⋯。
気づかれていないと思っていたのに⋯。