元カレの溺愛が止まらない




呑み込みが良いのか悪いのか、夏葉が教えはじめた途端、スラスラと問題を解きはじめた䈎元さん。


心なしか、機嫌が悪い気も⋯。


夏葉は䈎元さんの態度に気づいているのかいないのか、態度を変えることなく丁寧に教えてあげていた。




「あー終わった終わった。教えてくれてありがとー」




感情がまるでこもってない言葉を口にしながら、カバンに勉強道具をしまう䈎元さんは、夏葉の方をまったく見ようともしない。


その態度に、ムッとした。


なんだか態度が悪くて、気分が悪いわ。




「ささも───」


「教えてもらっといてその態度はねーだろ」



口を開きかけたわたしの手をグッとつかむと、優絆が苛立ったように口を開いた。


まるで、わたしを庇うように。



「普通にお礼言っただけじゃん」


優絆に指摘されたからか、䈎元さんの表情はさらに不機嫌なものになっていた。



「それが礼を言うヤツの態度かって言ってんだよ。そもそも俺、教えるなんて一言も言ってねーけど」


「⋯は? 教えてくれるってあのとき言ったじゃん! ウソつかないでよ!」


「俺は〝分かった〟って言っただけで〝教える〟とは言ってない」


⋯⋯たしかにその通りね。

分かったの一言では、了承したと断言できないわね。
優絆みたいな思考の持ち主なら尚のこと⋯。


わたしも夏葉も岩波くんも、ハラハラしながら事の顛末を見守る。


おそらくわたし達に共通している思いは、

お願いだから問題だけは起こさないで。

そのひとつに限ると思うわ。



「そんなの───」


「俺に教えてほしいと思ってる事実に対して分かったって言っただけ」


䈎元さんに喋る隙も与えない優絆はとても能弁で。



「なにそれ! 酷いじゃん!!」


「人に礼も言えないヤツに教えることなんて何一つない」


「だから!お礼ちゃんと言ったじゃん! それに、私は最上くんに数学教えてって頼んだの! 岩波くんや草柳さんには頼んでない!」




身勝手な言い分をぶつけてくる䈎元さんに、場の空気がどんどん凍っていく。