帰り道を奪われて

「よしよし怖かったね。もう大丈夫だよ」

泣き出してしまった紫乃を男性は優しい瞳で見つめ、紫乃を抱き寄せてその頭を撫でる。まるで幼い子をあやすような手つきだが、今の紫乃はそれが何よりも嬉しかった。

しばらく男性の腕の中で泣いた後、ようやく紫乃の心は落ち着きを取り戻した。顔は真っ赤に腫れ、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃになって汚れてしまっているが、心は嵐の病んだ後の海のように凪いでいる。

「おやおや、せっかくの可愛い顔が台無しだよ」

男性はどこからか布を取り出し、それで紫乃の顔を拭う。まるでご飯を口周りにつけた赤子のような扱いに紫乃は今度こそ恥じらいを覚え、男性の手を掴んだ。

「じ、自分で拭けますので!」

真っ赤に染まった顔を逸らしながら紫乃が言うと、男性はクスリと笑う。そして、紫乃の頭を優しく撫でながら言った。

「なら、顔を洗って拭いておいで。私はその間に食事の支度をしよう」

「えっ……」