帰り道を奪われて

扉を開けて入って来たのは、赤いお面をつけた背の高い男性だった。山伏のような格好をしており、その背中には黒い烏のような翼が生えている。普通の人ではないと、紫乃は一目でわかった。それと同時に手が震えていく。

「あの、あたしは生きているんですか?」

緊張を覚えながら紫乃は訊ねる。もしかしてここはあの世と呼ばれる場所ではないのか、そう一気に不安が込み上げてきたのだ。すると、男性はフッと笑った後にお面を外す。そこには切れ長の目をした華やかな顔があり、紫乃の頬は赤く染まる。

「大丈夫さ。……ほら、ちゃんと生きてる」

紫乃の腕は男性に取られ、男性の胸に手が触れる。当然紫乃は驚いたものの、男性は紫乃の手を強く掴んで離さない。しばらくすると、トクトクと彼の心音が伝わってきた。

「こうやって人の心音を手で感じることができるのは、生きている証拠だよ」

生きている、そう理解した瞬間に紫乃の瞳から涙が溢れていく。もう一度珠子たちに会えるのだ。嬉しさ、そして吹雪の中倒れた時の恐怖から涙が止まらない。