「何で?もう帰りたいのに……」

このまま帰れないのでは、そんな不安から紫乃の瞳から涙が溢れ、頬を伝っていく。その時、ふわりと背後から抱き締められ、紫乃の体は温もりに包まれた。だが、心は恐怖で冷えてしまっている。体が小刻みに震え出した。

「捕まえた。ほら、こんなにも震えて寒いんだろう?ダメじゃないか。私のそばから離れるなんて。君はもうどこにも帰れないんだよ?」

君を攫うために君を巫女役にするよう村長に言ったのだから、そう耳元でサルタヒコが囁く。紫乃は「嫌……離して……」と抵抗するものの、男性の力には敵わない。

サルタヒコの長い指が紫乃のおでこに触れる。刹那、紫乃を強い眠気が襲い彼女は一瞬にして夢の中へと落ちていった。



時は止まることなく流れていく。あの日から二百年が経った。未だに存在するその村では、今年もサルタヒコ祭りが幕を開ける。

「二百年前、サルタヒコ祭りの巫女役に選ばれた女の子が行方不明になっちゃったらしいから、正直巫女役なんてやりたくなかったんだけどなぁ……」