帰り道を奪われて

ただの村人である紫乃は、普段こんなものは口にできない。米も野菜も高いため、いつも質素なものを食べてきた。そのため、目の前に用意された豪華な食事に目が輝いてしまう。

「おかわりもあるから、たくさんお食べ」

「ありがとうございます!いただきます!」

緑茶を一口飲み、紫乃はまず白米を口に入れる。噛めば噛むほど口の中に広がる甘みに、紫乃は頬に手を当てた。

「……とっても、とってもおいしいです!」

「ならよかった」

男性が微笑み、紫乃は味噌汁に口をつける。温かい味噌汁を飲んだ瞬間、ずっと冷えていた体の芯が一気に温められたような感覚を覚えた。フウッと息が漏れる。

「温かくて、とってもおいしい……」

紫乃がそう呟くと、同じように味噌汁を飲んでいた男性の動きがピタリと止まる。男性は静かにお椀を置いた後、紫乃に驚くほど美しい笑みを見せた。

「今年はいいお米やいい酒を捧げてくれてありがとう。とてもおいしいよ」