異変に気づいたのは沙耶だった。

「…つゆ…?」

露はうっすらと浮かべた笑顔のまま。

表情が、ぴくりともしない。

「…うそ…うそ…ぜったいにうそ…」

彼女は昔から、嘘が嫌いだった。

「露…なぁ…冗談だろ…」

彼女は、あまり冗談を言ったりしない。


拓人の握る手は、なにも返してくれない。


息絶えた、朝倉露。


悲しみに叫ぶ拓人。


悲しみに震える沙耶。


露の最期は、死ぬ間際まで痛みと苦しみに耐えたのがまるで嘘のように…幸せに満ち溢れていた。

それを示してくれたのは、彼女が生きていた時に一度だけ見せてくれた、とても綺麗な笑顔だったからだ。