露の傷は、どう見ても深い。

それに今の露の状態。

命にさえ関わりそうなものだって、誰が見ても理解できる。

耐えがたい痛み…。

苦しみなんて、想像もできない。

声を出すのさえ難しく、息をすることさえ辛いのかも知れない…。

頭が狂いそうになる苦痛に苛まれながらも、それでも露は沙耶を気遣ってくれた。

沙耶は「どうして…」と問いたかった。

だけど、答えは知っている。

知っているからこそ沙耶は悔しくて、悲しくて、情けなくて…。

目の前にいる少女の、余りある優しさと愛情に包まれた沙耶。

それが二人の大好きな、朝倉露だった。

弱いくせに…。

なんにもできないくせに…。

どうしてそんなに優しいんだよぉ…。

露への愛おしさに堪えきれず、沙耶は壊れたように泣いた。

「つゆぅ…私は平気だから…。だからお願い…お願いだから…」

沙耶は泣き崩れそうになりながらも、露の身体をしっかりと包んで放さなかった。

「タ…クト…」

名前を囁かれた拓人。

拓人は握っていた露の手をもう一度強く握り締め、彼女の視線の前へ顔を近づけた。

「露っ!俺も無事だから!沙耶も、露も。みんな…みんな大丈夫だから…」

拓人はぼろぼろと涙を流しながら、露に笑いかける。

彼の言葉が、露に届いたのだろう。

露の表情がほんの少しだけ、優しく穏やかになったように見えた。

「タ…クト…」

そして再び露は、拓人の名前を呼んだ。