「…さ…ゃ…」

突然、蚊の鳴くような声を漏らした露。

二人は驚いた様子で露を見た。

「……」

露の様子は変わっていない。

それでも、間違いなく声が聞こえた。

そして沙耶の名前を呼んだ。

「露…どうしたの?痛いの?」

露の唇はわずかに動いているが、視線はずっとどこか遠くを見つめたままだった。

「だぃ…じ…ぶ…」

露は何かを伝えようとしているが、なかなか聞き取れない。

沙耶は彼女の言葉を理解できず、焦ってしまい拓人の顔を見た。

たぶん、何か大切なこと…。

大切なことを伝えようとしている。

沙耶は再び、露の顔を見た。

「露…もう一回言って…」

そして露は、今度はきちんと聞き取れる言葉で話してくれた。

「…だ…いじょ…ぶ、さ…ゃ?」

露が必死で絞り出した言葉。

思わず沙耶の瞳に涙があふれた。