親友が見せた涙

「拓人っ!露が!」

拓人の怒りは収まりきらない。

いつも温厚な拓人が、異常なまでに興奮を抑えることができずにいる。

「拓人っ!たくとっ!」

沙耶の悲痛な叫び声がようやく拓人の心にも通じ、もはや原型を失った死人の頭から彼はゆっくりと足を離した。

「…ハァハァ…っ、くそっ…」

「拓人っ、急いで!露が大変なの!拓人っ!」

拓人は荒げた呼吸を無理やり抑え込み、急いで二人のほうへ寄った。

「露っ、大丈夫か?」

「…ぁ…ぁ…」

涙を浮かべる、大きく見開かれた瞳。

焦点がまるで合っていない。

痛みと恐怖に混乱してか、呼吸も息苦しく詰まり、手や唇だけでなく身体すべてが大きく震えあがっている。

傷口はまるで…穴を開けたように肉が裂け、血がどくどくと溢れ出している。

…ひどい有り様だった。

「…沙耶。俺が露を背負うから、傷口を…露の傷口をこれで押さえててくれ」

拓人は手にしていたカバンからスポーツタオルを取り上げ、沙耶に手渡した。

「わ、わかった!」

拓人は露を静かに背負いあげると、沙耶はその傍らから彼女の傷口を必死に押さえつけた。

行く先は、まずは病院。

だか後ろからは、騒ぎに気づいた死人の群れが三人を追っている。

深手を負った露を背負いながら、無事に病院まで辿り着ける保証はない。

ひとまず隠れて様子を見よう、という拓人の言葉に沙耶は従い、近くに見つけた納屋へと逃げ込んだ。