「露っ!露っ!」

沙耶の悲痛な声の呼びかけで、露はようやくうっすらと目を開いた。

地べたに座り込んだ沙耶に細い身体を預け、横から抱きかかえられた様子の露。

彼女の瞳は弱い緑色の光を放ち、青白いはずの頬は大量の血と涙でしっとりと汚れていた。

沙耶の傍らには拓人がいる。

必死に露の手を握り返している彼の制服は、おひただしいまでの血にまみれていた。

「…さ…ゃ…」

ここは薄暗くて、狭い空間。

散乱した食品の腐臭や籠もった熱気がひどく、今の露の状態を思えばすぐにでも飛び出したいような場所。

だが、今はそれができなかった。

「よかった…。いま病院いくからね。もう少しだけ待っててね…」

沙耶の言葉にも反応は薄く、瞳さえろくに動こうとしない。

今はただ、かろうじて感じる…蜘蛛の糸のような細い息だけが、露がわずかな命を繋いでいることの証明だった。